信託について

【家族信託】次の次の世代までの『相続』

2021.06.09
【家族信託】次の次の世代までの『相続』

相続一郎は悩んでいた。
人生百年時代とは言うけれど、最近は持病のせいで体調が悪い日もあるし、物忘れが激しくなってきた気もする。
そろそろ自分に何かあったときのために財産の処分について考えなければならない。
幸い、子どもたちは独立して上手くやっていっている。自分に何かあったときに心配なのは、妻の生活だけだ。

ただ、子どもたちは仲が悪いわけではないが、相続になると揉めるかもしれない。
できる事なら、自分の相続については自分で決めておきたい。

「自分が死んだら妻に全財産を相続させるが、妻が死んだら残った資産のうち不動産を長男に、不動産以外の財産を長女に『相続』させる」ことはできないだろうか、と…。
今回は、自分の財産を次の次の世代に『相続』させる方法を説明します。

1.遺言の利用

(1)「自分が死んだら妻に全財産を相続させるが、妻が死んだら残った資産のうち不動産を長男に、不動産以外の財産を長女に『相続』させる」という遺言(以下、「後継ぎ遺言」ということにします。)によって、自分の財産を次の次の世代に『相続』させることはできるのでしょうか?
結論から言いますと、「後継ぎ遺言」は無効と判断されるリスクが高いです。

(2)近代私法には、人は何人からも妨害を受けることなく自分の所有物を自由に使用・収益・処分できるという「所有権絶対の原則」があり、日本の法律にもそのことが定められています(憲法29条、民法206条)。
そこで、相続人は、遺言によって相続した財産を何人からも指図を受けずに自由に使用したり、売却したりすることができるのが原則となります。
また、民法その他の法律で定められた以外の物権(所有権も物権の一つです。)を創ることはできないという「物権法定主義」が定められています(民法第175条)。
「後継ぎ遺贈」を認めると、法律の内容と異なる、自由に使用・収益・処分できないという「所有権」を認めることになるため、「物権法定主義」に反することになります。
そのため、「後継ぎ遺言」は、一般的に無効であると考えられています。

(3)もっとも、AがBに対して、Cに不動産の所有権を譲ることとした遺言の効力が争われた事案において、最高裁は「本件遺言書によるBに対する遺贈につき、遺贈の目的の一部である本件不動産の所有権を、Cに対して移転するべき債務をBに負担させた負担付遺贈・・・と解する余地もある」(最判昭和58.3.18判時1075-115)と判断し、「後継ぎ遺言」は効力がないとした原判決を破棄しています。なお、「負担付遺贈」とは、文字通り、ある義務を負担することを条件に遺贈することを言います。
上記の判例は明確に「後継ぎ遺言」を否定していないため、「後継ぎ遺言」が絶対に無効になるとはいえません。

(4)しかし、「後継ぎ遺言」の効力を否定する見解が多いこと、次に説明する「家族信託」という有効な方法があることから、「後継ぎ遺言」は利用すべきではありません。

【参考条文】
■憲法
(財産権)
第29条
① 財産権は、これを侵してはならない。
② 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
③ 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
民法
(物権の創設)
第175条 物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。
(所有権の内容)
第206条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

2.家族信託の利用

(1)「家族信託」とは、簡単に説明しますと、信託法を使った財産管理の手法のうち家族・親族間で信託契約を締結したものをいいます。申し訳ありませんが、紙幅の関係上、「家族信託」の詳細については、別のコラムを参照するようにお願い致します。

(2)「家族信託」は、平成19年に信託法が改正されたことで注目されるようになりました。その際、信託法91条が新設され、あらかじめ決めた人に、複数世代にわたって財産を受け継がせていくことができるようになりました(これを、「受益者連続」機能といいます。)。
この信託法91条に規定する信託の仕組みを使うことで、「自分が死んだら妻に全財産を相続させるが、妻が死んだら残った資産のうち不動産を長男に、不動産以外の財産を長女に『相続』させる」ことが可能となります(このような信託契約を「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」といいます。)。
つまり、受益者を妻→子どもとなる信託契約を締結することになります。

(3)なぜ、信託法で「受益者連続」が認められるかという理由は以下の通りとなります。少し専門的な話になるので、読み飛ばして頂いても大丈夫です。
つまり、信託契約では、所有権という財産権が「信託受益権」という債権に転換されます。所有権と違って、債権は条件付・始期付・一身専属的指定など、契約当事者の合意があれば、どのようなものでも作ることができます。もちろん、賭博や犯罪行為、裏口入学などに関した債権は当事者の合意があったとしても公序良俗に反するとして認められませんが…。
信託の権利転換機能を生かすことで、所有権絶対の原則の適用を排除し、委託者が何段階にも財産の受取人を指定することが可能になるのです。

(4)さて、次の次の世代までの『相続』を決めることができる「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」は、相手に財産を渡した後も、自分の“想い”を及ぼすことができるというメリットがあります。
しかし、「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」でも、無制限に指定することは許されていません。無制限に指定を許してしまうと、将来の利害関係人を不当に拘束し、国民の経済活動を阻害しかねないというのがその理由です。

信託法91条では、信託が設定されてから「30年間」という期間制限が設けられています。これは、信託契約設定から30年経過後、直ちに強制的に信託契約が終了するのではなく、30年経過後は、受益者の交代は1回限りで、新たに受益者となった者が死亡することで当該信託契約が終了します。
また、「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」は、遺留分減殺請求の対象になる可能性があることや受益者が交代するごとに取得した財産権は、みなし相続税の対象となり、取得した人物には相続税と同様の負担が発生する点には注意が必要です。

【参考条文】
信託法
(受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託の特例)
第91条 受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託は、当該信託がされた時から三十年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する。

3.まとめ

今回、説明させて頂きました「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」は、①知的障がいがあり財産の管理ができない子どもがいる場合、②子供がいない夫婦で、妻に相続した後、妻の親族ではなく、財産を自分の兄弟や甥・姪に挙げたい場合、③会社経営者で個人の所有不動産を事業用に使用しているため、自分の次は長男、その次は孫を後継者にしたい場合などにも活用することができます。

民法では実現できない、「家族信託」による『相続』に興味を持たれた方は、是非、弊所にご相談してください。