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相続をさせたくない

重大な侮辱と相続人の廃除について

2021.04.26

例えば、子どもが母親に対して「病気になって早く死ね。」「火事で死んでしまえ。」などの酷い言動に及んだとします。

程度や頻度にもよるでしょうが、このような場合にまで、子は母の遺産を相続することができるでしょうか。上記のような言動に及んだ子について、裁判所は母に対する「重大な侮辱」があったと認め、子を母の相続人から廃除する決定した裁判所の判決があります。

ここで、「そもそも相続人の廃除って何?」と思われた方もいるかもしれません。
今回は、「相続人の廃除」についてお話したいと思います。

1.相続人の廃除

相続人の廃除とは、遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、もしくは重大な侮辱をし、又はその他の著しい非行があったときは、被相続人は家庭裁判所に、その推定相続人の廃除を請求することができる、という法的な制度をいいます(「虐待」、「侮辱」及び「その他の著しい非行があった場合」については、どのような場合にそれにあたるかについて、詳しい内容を以下で説明しております。)。

廃除の意思表示は遺言で行うこともできます。しかし、遺言で行う場合は、遺言執行者が遺言の効力が生じた後、遅滞なく家庭裁判所に廃除の請求をする必要があります(遺言執行者とは、噛み砕いていうと、遺言書の内容を実現する人のことをいいます。遺言執行者にの記事はこちら:遺言執行者について)。

虐待
虐待とは、家族の共同生活関係の継続を不可能にするほど、被相続人に苦痛を与える行為など
侮辱
侮辱とは、家族の共同生活関係の継続を不可能にするほど、被相続人の名誉や自尊心を傷つける行為など
その他の著しい非行
著しい非行がある場合としては、酒食に溺れる、犯罪、遺棄、浪費、被相続人以外の家族との不和など

2.廃除事由の判断基準

廃除事由に該当するかどうかは、当該行為が被相続人との家族的共同生活関係を破壊し、その修復が著しく困難なほどのものといえるか、という基準で判断されます。
具体的には、被相続人の主観によるものではなく、その言動がなされた当時の社会的意識や倫理、問題となる言動の発生原因や責任の所在、及び言動の反復・継続性の有無などの諸事情も考慮され判断されるのです。

このような客観的な要素が重視される理由は、相続人の廃除が認められれば、相続人は法定相続分を失うだけでなく、遺留分(遺言書で全くもらえないとされている場合でも最低限相続できる割合のこと。詳細は別の記事をご確認ください。)すら剥奪される強力な効力が発生してしまうからにほかなりません。

なお、上記のような基準で判断されますので、被相続人の態度に多くの原因があった場合や、双方に原因があった場合には、廃除要件に該当しないとした裁判所の審判例もあります。以下、参考までにいくつか審判例をご紹介します。

【審判例】
⑴息子が母親に対して「80まで生きれば十分だ。だから、早く死んでしまえ。」「病気になって早く死ね。」「火事で死ねばいい。」などの言動をなしたことが、一過性のものではないとして、「重大な侮辱」があったと認めた例(東京高裁)。
⑵娘が暴力団と婚姻し、父母が婚姻に反対であるのに、父の名前で披露宴の招待状を出すなどした事例で、「虐待又は重大な侮辱」に当たるとして、廃除を認めた例(東京高裁)。
⑶長男が窃盗などにより何度も服役し、現在も刑事施設に服役中であり、窃盗などの被害弁済や借金返済を行わなかったことにより、被害者らへの多大の精神的苦痛と多額の経済的負担を強いてきたことが明らかであることから、その長男に対して「著しい非行」があったと認めた例(京都家裁)。
⑷長男が、借金を重ね、父母に2,000万以上を返済させたり、長男の債権者が、父母宅に押し掛けるといったことで、父母を約20年以上にわたり経済的、精神的に苦しめてきたりしたことを「著しい非行」に該当すると認めた例(神戸家裁)。

3.手続きと効力について

家庭裁判所に相続人の廃除の手続きを申立てる際、申立資格を有するのは被相続人であり、他の推定相続人が申立てをすることはできません。

例えば、ある母親の相続人が息子3人の場合、母親に対して侮辱や虐待を行っている長男を相続人から廃除させようと、他の相続人(例えば、次男や三男。)が申し立てることはできず、母親からのみ申し立てることができるということです。

また、廃除の意思表示は、遺言で行うこともできますが、この場合、遺言の効力が生じた後、遺言執行者が申立人として、遅滞なく、家庭裁判所に廃除の請求をしなければなりません(遺言執行者については前述の通り。)。なお、相続人の廃除の申立てを行うことができる管轄の家庭裁判所は、被相続人の住所地又は相続開始地です。

廃除審判が確定すると、廃除された人は廃除を申し立てた人との関係で相続権を失うことになります。遺言によって特定の相続人に対する相続分を0とする場合と大きく違うのは、「相続人」ではなくなるので、遺留分も認められないという点です(遺留分については前述の通り。)。また、被相続人はいつでも、推定相続人の廃除の取消を家庭裁判所に申し立てることができます。

4.おわりに

配偶者や養子に自分の財産を相続させたくないという場合は、廃除ではなく、離婚や離縁といった手段を用いれば実現可能です。
しかし、実子や実父母などの血縁関係がある親族に相続させたくないという場合には、廃除によって相続権を剥奪するしか方法がありません(上記の通り、遺言で全く渡さないという方法も可能ですが、遺留分の問題が残ります。)。

相続人の廃除は、上記の通り、様々な要素を考慮して判断されますので、お悩みやご不明なことがあれば、一度弁護士などの専門家に相談されることをお勧めします。

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