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相続手続き

遺産が入ってくるって聞いたからお金を貸したのに,相続放棄された!やめさせることはできる?

2017.09.02

遺産が入ってくるって聞いたからお金を貸したのに,相続放棄された!やめさせることはできる?

<相談内容>
私は,友人に100万円を貸してほしいと頼まれました。最初は渋ったのですが,友人が「実は最近父が亡くなり,遺産が500万円ほど手に入る予定なんだ。三か月後にはお金を絶対返すよ。」と言うので,100万円を貸しました。
しかし,三か月後に友人に返済を求めたところ,「父の相続は放棄したから,悪いけど返すお金がない。」と言われてしまいました。友人のお父さんには1000万円の遺産があり,友人が相続を放棄し,友人のお母さんが全てを相続したそうです。友人は私からお金を借りているのに,相続放棄するなんて納得いきません。この相続放棄を止めることはできないでしょうか?

 今回は,債務者の行った相続放棄や遺産分割協議を債権者が取り消すことができるか,ご説明していきます。

1 詐害行為取消権とは

 民法には,債権者が,自分の債権を保全するため,債務者の不当な財産処分行為の取消しを請求できる権利が規定されており,これを「詐害行為取消権」といいます。
 たとえば,AさんがBさんに1000万円を貸しており,Bさんは500万円の土地のほかに財産を持っておらず,その土地がなくなればAさんに借金を返すことはできないと分かっているのに,土地を他人に贈与してしまったというケースを考えてみましょう。AさんはBさんの贈与が詐害行為にあたるとして,取消しを請求できるというのが詐害行為取消権です。

2 相続放棄

 冒頭の相談事例について,友人の相続放棄を詐害行為として取消しできるかどうか考えてみましょう。
 判例(最判昭和49年9月20日)は,「相続の放棄のような身分行為については,民法424条の詐害行為取消権の対象とならないと解するのが相当である。」と,相続放棄は詐害行為として取り消すことはできないと判断しています。
その理由としては,①相続放棄は債務者(友人)が既に持っている財産を積極的に減少させる行為ではなく,債務者の財産の増加を妨げる消極的な行為に過ぎないこと,また,②相続放棄は他人の意思によって強制すべきではないところ,もし相続放棄を債権者が取り消せるとすれば,債権者が相続人に相続の承認を強制するのと同じ結果になってしまうことが挙げられています。
 したがって,冒頭の相談事例で,友人の相続放棄を取り消すことはできません。

3 遺産分割協議

 では,次の場合はどうでしょうか。
Cさんは,Dさんから「もうすぐ父の遺産の1億円のビルを母と弟と分けることになっている。だから今だけ1000万円貸してくれ。」と頼まれ,1000万円を貸しました。しかしその後,Dさんの父が所有していたビルは,Dさんの母と弟が半分ずつ取得し,Dさんの相続分はゼロという遺産分割協議がなされたことが分かりました。Dさんは何の財産も持っていないので,Cさんは1000万円を返してもらうことができません。Cさんは,Dさんたちが行った遺産分割協議を取り消すことができるでしょうか。
 まず,遺産分割協議を詐害行為として取り消すことができるかについて,判例(最二小判平成11年6月11日)は,取り消すことができるとしています。
相続放棄と遺産分割協議で結論が異なるのは,相続放棄が身分行為(婚姻や養子縁組などと同じ,財産権を目的としない行為)であるのに対して,遺産分割協議は財産権を目的とする行為だと解されているからです。ここは少し難しい話になりますが,詐害行為取消権を行使するためには,債務者が無資力である(Dさんに何も財産がない)ことや,保全する権利(事例では貸金1000万円)が取消を請求する行為(事例では相続分0の遺産分割協議)よりも先に成立していること等,いくつか要件があるのですが,その要件の1つとして,取消を請求する行為が「財産権を目的とする法律行為」であることが必要となります。これは,詐害行為取消権が,債権者の財産権を保全するための権利であるため,取消請求対象行為も,財産権を目的とする法律行為でなければ意味がないからです。
 今回の事案に戻りますが,Dさんは,Cさんからお金を借りた後に,法定相続分さえも放棄するような形で遺産分割合意をして,無資力状態に至っているので,Cさんの遺産分割協議は,Dさんの財産権を害しているといえ,Dさんは遺産分割協議の取り消しを請求することができます。

4 まとめ

 今回は,相続放棄や遺産分割協議の詐害行為取消についてご説明しました。
債務者の遺産分割協議は詐害行為として取り消し得ますが,相続放棄は取り消すことができないので注意が必要です。
 しかし,債務者に「相続放棄をした」と言われた場合であっても,諦めるのはまだ早いです。ここでいう相続放棄とは,家庭裁判所に対して所定の期間内に相続放棄の申述を行い,裁判所にその申述が受理された場合を言いますので,単に,何も相続していない状態に過ぎない場合は,相続放棄にあたりません。一般的に,相続分を取得しないという内容の遺産分割協議をもって,相続放棄をしたものと誤解されている方も多いですが,それは,あくまでプラスの財産は取得しないという合意であって,マイナスの財産を引き継がないという効果はないから注意が必要です。ですので,家庭裁判所に相続放棄の申述をしていなければ,法的な意味での相続放棄とは言えませんので,債権者の方は,債務者が相続放棄をしたと主張する場合には,相続放棄の申述受理証明書を見せてもらうと良いでしょう。

 また,相続放棄の申述が受理されていたとしても,債務者が実は相続財産の一部を費消していたことが後に判明する等,場合によっては相続放棄の効力を争いうるケースもあります。
 いずれにせよ,お金を貸している相手が相続をしなかったという場合には,一度弁護士に相談してみることをお勧めします。

 

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