遺産相続

「遺言書」作っていますか?~「遺言書」がない場合に支払う大きな代償~

2021.02.11

「超高齢社会」に突入した昨今、「遺言書」に興味を持たれている方も多いのではないでしょうか。しかし、何となく分かってはいても、遺言書が無いとどうなるのかを理解している方は多くないのではないでしょうか。

今回は、遺言書がなかったときに必要となる「遺産分割」に視点を置くことで、遺言書の重要性についてご理解頂きたいと思います。

1 母が亡くなった…遺言書は?

Aさん:「母が亡くなったのですが、兄が、四十九日を過ぎたら突然、母の財産分けをしたいと言い出して…。『俺は長男だから俺が相続するべきだ!』などと言っているのです。私は父が亡くなってから母と同居し、最後まで母の世話をしました。兄はその間盆正月でさえ帰ってきませんでした。だから兄が言っていることに何だか納得が行かなくて…。」

弁護士:「お母様の遺言書はありますか?」

Aさん:「遺言書はありません…」

このように、遺言書が無いAさんのような場合には、今後どうしたら良いのでしょうか。

2 遺産を分けるための話合い=「遺産分割協議」とは?

Aさんのお母様には遺言書がありません。
この場合、Aさんは、お兄さんと「遺産分割協議」をしなければなりません。

「遺産分割協議」とは、相続人全員で亡くなられた方の遺産を分けるための話合いをすることをいいます。
誰かが亡くなった場合、銀行などの金融機関その方の預金を凍結します。これは、勝手に誰かが遺産である預金を引き出せないようにするためです。この凍結を解いて預金を取り出すためには、遺産分割協議を行って、誰が相続するのかをはっきりさせる必要があります。

また、亡くなられた方の名義になっている不動産がある場合には、その名義変更をするために、遺産分割協議を行って、誰が相続するのかをはっきりさせなければなりません。

そのため、先ほどのAさんは、お兄さんと話合い、皆が納得しない限りお母様の預金にも手を付けられませんし、不動産の名義変更もできません。

しかし、皆さんもご存知の通り、簡単には話はつきません。
揉める理由は家庭により様々です。子どもの頃は仲が良かった兄妹でも、その後結婚して家族ができると、それぞれの生活もあり、子どもの学費が掛かったりと、家族の手前、金銭の話となると皆引けない事情を抱えています。

そのため、揉めるのは当然ともいえるでしょう。

3 遺産分割協議でも決着がつかなければ?「遺産分割調停」とは?

この遺産分割協議でも決着がつかなければ、家庭裁判所に申し立てて、「遺産分割調停」を行うしかありません。

しかし、結局Aさんは弁護士を付けてお兄さんと話をしましたが、互いに一歩も譲らず3か月経っても決着はつきませんでした。

この場合、互いに譲らない限り平行線で、何も前には進みません。
少しでも先に進めるためには、家庭裁判所に、「遺産分割調停」を申し立てる必要があります。

「遺産分割調停」とは、「家庭裁判所での話合い」です。
但し、裁判所を利用するからといって、裁判所が何かを決めてくれるわけではなく、あくまで「話合い」に過ぎません。そのため、裁判所に場を変えて、そこでまた話合いを続けなければなりません。しかも、遺産分割調停は凡そ1カ月~1カ月半に1度しか開かれませんので、3~4回調停で話し合うだけで平気で半年くらいは経ってしまいます。

それだけでなく、調停は、通常1回あたり3時間程度行われるのですが、現在は新型コロナウイルスの感染予防のために1回あたり約1時間半程度しか用意されていません。そのため、調停をやるとなれば、解決までの時間は益々遅くなってしまいます。

4 解決までに要する時間と費用

先ほどのAさんの場合、結局遺産分割調停で決着がつくまでに9カ月もの時間を要し、3カ月の遺産分割協議と合わせると合計1年もの時間が掛かりました。しかし、実際は解決までに2~3年掛かる方もいます。

しかも、遺産分割協議から弁護士に依頼したため、協議、調停と弁護士費用が掛かりました。
弁護士費用は弁護士によって様々で、遺産の総額によっても変わりますが、遺産分割協議から調停までの全てを依頼するとなれば、最低でも50~100万円は覚悟しなければなりません。

更に、解決までの間、かなりのストレスを抱えたまま日常生活を送ることになります。少なくともここで揉めてしまった以上、仮に最終的に解決したとしても、遺恨が生じてしまうでしょう。

このように、遺産に関する話合いは、時間や費用を使うだけでなく精神的にもかなりの負担を強いることになるのです。※なお、調停でも話合いがつかなければ、「遺産分割審判」で裁判官が遺産の分割について決定します。この場合、解決までに更に数カ月は時間が必要となります。

5 遺言書があったら何が違うのか?

それではもし、Aさんのお母様が、遺言書を遺していたら何が違ったのでしょうか?

遡って考えます。

弁護士が、Aさんが持参された遺言書を確認すると、遺産である預金約3000万円のうち1000万円はお兄さんに、残り(約2000万円)はすべてAさんに、という内容でした。

お母様は、最後まで面倒を見てくれたAさんに多く渡す内容にしていたようですが、お兄さんに全くあげないと兄妹で揉めると思ったのか、お兄さんにも一部を渡す内容にしていたようです。
また、遺言書の体裁(形式面)にも特段問題はありませんでした。

そして、遺言書がある場合、遺言書の決めた通りに分配すればいいことになります。具体的には、遺言書を使えば、亡くなった方の預金の解約や不動産の名義変更も行うことができます。

そのため、遺産分割協議は不要となり、何カ月もかかる話合いや、そのために必要となる費用及びそれにより無用な争いも生じません。

上記のAさんの場合も、お兄さんが何と言おうが、お母様の遺言書の通り、お兄様に1000万円、残りの預金を全てAさんが相続することになります。
話合いが不要である以上、時間も費用も掛かりませんし、何よりお兄さんと色々な争いを繰り広げなくていいため、ストレスも少なく済みます。

6 遺言書を作成するときの注意点!

ここまでの話で、遺言書を作成しなければどのようなことになるかはお分かりいただけたかと思います。

ただ、遺言書を作成するとしても、遺言書は法律が定める形式的要件を満たしていなかったり、曖昧な内容になっていたりすると、無効になることがあります。

また、Aさんの場合でも、Aさんに全財産を相続させる内容の遺言書になっていると、お兄さんがAさんに対して「遺留分」(最低限相続することができる割合のこと)を主張することができる可能性があるため、紛争の種が残ることもあります。

さらに、「遺言執行者」という、遺言の内容を実現する人物を遺言書で指定しておかないと、金融機関によっては解約に当たり、結局相続人全員の印鑑証明書を要求されることもあります。そのため、いざ遺言書を作るとなっても、作り方や内容に不備が無いようによく考えなければなりません。

7 まとめ

以上の通り、遺言書の形式面や内容も重要です。

しかし多くの方は、そもそも遺言書を作る前のところで止まってしまっているのではないでしょうか。
作った方が良いことは分かっていても、「いつでも作れるから」と考えることを後回しにしていませんか?

今回お話した「遺言書がなかったらどうなるのか」についてお考え頂き、遺言書を作成するきっかけにして頂けますと幸いです。