遺産相続

どんな時に相続財産管理人の選任申立を行うべきか

2021.02.26
どんな時に相続財産管理人の選任申立を行うべきか

人が死亡すると、その者(=被相続人)の財産(=相続財産)は通常は相続人に受け継がれます。

しかし、様々な理由により、人が死亡しても「その相続人が存在しない」ケースがあり、その場合、被相続人の財産を受け継ぐ者がいない状態となってしまいます。こういったとき、その相続財産は放置されてしまうのでしょうか?

1 相続財産管理人とは

死亡した人に相続人がおらず、その人の財産について管理・清算をする必要があると認められる場合には、利害関係人から管轄の家庭裁判所に対して定められた手続きを行うことにより、「相続財産管理人」を選任することができます(民法951条以下)。相続財産管理人は、被相続人の財産について管理・清算を行います。

ここでは、「どんな時に相続財産管理人の選任申立を行うべきか」という観点から説明していきます。

2 相続財産管理人選任申立の要否の検討にあたって

相続財産管理人を選任するか否かを検討するにあたってはケースバーケースで様々な条件を確認する必要がありますが、その中でも以下に挙げる点については、最低限確認が必要な事項と言えます。

【相続財産管理人選任申立の要否について検討する際の確認事項】
① 相続財産管理人を選任すべき目的があるケースか
② 相続は開始されており、かつ相続人が不存在か
③ 相続人の財産を事前に調査し、把握が出来ているかどうか
④ 申立人が、相続財産管理人選任申立を行うことができる利害関係人に該当するか
⑤ 申立手続にあたって必要となる費用(特に予納金)は準備が可能か
⑥ 予納金を支払ってでも相続財産管理人を選任することに価値が認められる(申立人にとって利益がある)ケースなのか

それでは、これらの事項についてそれぞれ見ていきましょう。

⑴ 相続財産管理人を選任すべき目的とは

相続財産管理人の選任を検討するということは、相続財産について管理・処分を実施することにより何かしらの目的を達成したいという理由があるはずです。
実際に相続財産管理人を選任すべきといえる目的として挙げられる例としては、以下のようなケースがあります。

(ア) 死亡した人の財産の引継ぎ
(イ) 死亡した人に対して有していた未払金等の債権の回収
(ウ) 特別縁故者に対する相続財産分与の申立
(エ) 用地買収や空き家処分
(オ) 時効の取得

これらの目的を見ると、多くの目的が、「死亡した人が残した『価値のある相続財産』を目的としている」と言えます。

例えば上記(イ)を目的としている場合、もし相続財産を調査した結果、その内訳が殆ど価値のないものだったり、債権額に見合わないほど少なかったりすると、わざわざ相続財産管理人の選任がなされたとしても債権の回収は見込めないということになるので、相続財産管理人の選任をしないという判断をするかもしれません。よって、ケースによっては「相続財産がある程度の量残されていなければ、相続財産管理人を選任する意味合いが低い」と考えることもできます。

⑵ 相続人の不存在を確認する方法

相続人の存否について、通常は、被相続人の出生~死亡までの連続した戸籍を収集した上でその内容から確認をすることになります。
一方、戸籍のみだと、相続人であるかどうかを確認できない項目がありますので、注意が必要となります。

① 相続欠格

相続欠格の事由は、殺人や遺言書の偽造といった重大なものであるため、相続人等の関係者からのヒアリングで確認をする必要があります。

② 相続放棄

家庭裁判所で相続放棄を行っている場合は、相続放棄手続きを行った本人に対してその事実を聴取し疎明資料の提出を求めたり、利害関係人が管轄の家庭裁判所に対して照会を行ったりという方法によりその事実を確認することができます。

⑶ 相続財産を確認する方法

相続財産管理人の選任を検討するにあたっては、被相続人がどれほどの量の相続財産を残しているかという点がかなり重要なポイントになります。

そのため、相続財産の全容を把握できる程の資料が無い場合にはそもそも十分な調査を行うことができないということも考えられます。

また同時に、負債等の消極財産について確認することも重要です。
実際に相続財産を調査する際には、少なくとも以下に挙げる項目を確認することが必要となります。

① 相続財産管理人の選任を希望している人が元々把握している相続財産の有無、もし把握している財産がある場合にはその種類。
② 相続財産を従前管理していた者の存否。いる場合には、相続財産の管理状況について聞き取りを行う。
③ 被相続人名義の金融機関の通帳や不動産の登記関係の資料(登記簿等)、株式配当通知、各種契約書、会員権等があればそれらを確認する。
④ 被相続人宛の郵便物があれば、その中に財産関係の資料になりそうなものが無いか確認する(例:督促の通知が来ていないか等)。
⑷ 利害関係者の確認

相続財産管理人選任の申立てを行うことができる立場のうちの一つが「利害関係者」です。

そもそも相続財産管理人の選任を希望している人が申立人となることができるかどうかを検討するため、利害関係者の存否を事前に確認することが重要となるのです。

⑸ 家庭裁判所へ納める予納金について

相続財産管理人選任の申立て手続きを進めるにあたってはいくらかの費用が発生しますが、その大部分を占めるのが「予納金」です。数十万円かかることが一般的であるため、これを準備出来ないのであれば申立を断念せざるを得ない、ということにもなりかねません。

3 実務上、実際に検討する際に特に重要となる事項とその考え方

 相続財産管理人の選任申立をすることを考えるときに検討が必要な項目をここまで見てきましたが、実際に検討するにあたっては、「相続財産管理人を選任することで、目的が達成し得るのか」や「費用面での問題が無いか」の2点が大きな要素となり、その他の事項と総合的に勘案して申立の要否を検討することとなります。
 実際に検討を進めるにあたっての基本的な考え方を以下に例示します。

① 相続財産管理人が相続財産を管理・清算するための費用は、相続財産の中から支出する
→相続財産が足りないと、相続財産の管理、清算が行えないことになるため、十分な相続財産がそもそもあるかどうかを確認することが重要となる。

② 相続財産において金銭等が少ない場合は、相続財産管理人を申し立てる際、申立人が予納金(約数十万~ケースによっては100万円程度)を家庭裁判所へ支払う必要があるが、この予納金の大部分は相続財産管理人の報酬であり、相続財産の管理・清算のために支出される金額は僅かである。
→相続財産管理人が業務を進める中で最終的に相続財産が残ればそこから相続財産管理人の報酬が捻出され、申立手続き時に申立人が納めた予納金のうち残金が払い戻されることもある。しかしながら、相続財産に余りが生じなければ予納金は返金されないため、多額の予納金が返金されない前提で計画を立てた方がベターである。

③ 相続財産管理人を選任したことにより、目的を達成できるか否か
→つまり、仮に相続財産管理人を選任したとしても利害関係人の利益保護の観点等からその目的(債権回収等)の達成が見込まれる可能性が高ければ相続財産管理人選任申立手続きを行う意義が認められるが、逆に目的達成の見込みが低い場合には相続財産管理人選任申立を行うことを断念するという結論に至ることもある。

④ 相続財産がある程度あることが把握できており、その中から相続財産管理人の業務にあたっての資金等が支出できる程度の十分な相続財産が存在するか否か
→相続財産管理人選任申立を行うにあたって、その相続財産が少額であったとしても手続きを進めることは可能である。しかしながら、実際には官報公告費用として約4万円が発生するため、相続財産の額によっては経費だけで相続財産が無くなってしまう可能性がある。相続財産管理人が選任されたとしても、相続財産が無くなってしまうとその業務は終了してしまうため、当初の目的(債権回収等)を達成する前に資金が尽きてしまうと費用倒れとなってしまう。

⑤ 相続財産管理人を選任するためには、予納金等それなりの費用を申立人が負担する必要があるが、その費用を申立人が負担することに問題が無いか
→相続財産管理人の選任申立から実際に目的を達成するまではある程度の期間と多額の費用を申立人が負担することとなるため、「そこまでの費用・期間をかけてでも相続財産を管理・清算する必要があるか」という視点で考えることは必須である。

4 最後に

 相続財産管理人制度は、明確な目的があり、その達成のためにどこまで費用と時間をかけるのかという点や、事前に実施する相続財産の調査等、実際に申立ての要否を検討するにあたっては本当に様々な観点から事情を確認し、整理する必要があります。
 手続きやその事前準備は煩雑ではありますが、この制度を使用することにより、例えばもう諦めていた債権を回収することができたりといった可能性もありますので、そういった目的を達成する手段の一つとして知っておくと良いでしょう。
 ケースバイケースで活用すべきかどうか異なりますので、弁護士に相談しながら活用の有無も検討されてみてください。