遺産相続

相続放棄ができなくなる場合があるって本当?

2017.06.01
遺産相続|弁護士ニュース

相続をすると、被相続人(亡くなった人)のプラスの財産もマイナスの財産も受け継ぎます。被相続人の借金が多い等、相続をしたくない場合は「相続放棄」を行い、一切の相続をしないことも可能です。

しかし一定の行為をすると、相続を単純承認(無限に被相続人の権利義務を承継すること)したものとみなされ、相続放棄ができなくなります。

今回は、どのような行為をしたら単純承認とみなされてしまうのか、ご説明していきます。

1 法定単純承認

以下の場合には、単純承認したものとみなされ、相続放棄はできません。

⑴ 相続財産の全部または一部を処分したとき

「処分」には、遺産の売却のような法律上の処分行為も、家屋や物品を壊すような事実的な処分行為も含まれます。

どのような行為が「処分」に当たるかという判断は、後ほど事例を見ながらお話していきます。

⑵ 熟慮期間中に限定承認や相続放棄の手続をしなかったとき

被相続人の死亡と、ご自身が相続人であることを知ってから三カ月以内に相続放棄の手続きをしなければ、もはや相続放棄はできません。

ただし例外がありますので、詳しくは別の記事をご覧ください。

⑶ 相続放棄後に相続財産を隠匿、消費したとき

相続放棄をした後に相続財産を隠匿、消費した場合には、もはや相続放棄のメリットを受ける必要がないとして、単純承認したものとみなされます。

2 事例

以下では、事例を見ながら、ある行為が法定単純承認となる相続財産の「処分」に当たるかどうかについてご説明していきます。

Aさんの父が家出し行方不明になりました。そこで、Aさんは父の所有していた家具や衣料品を売ってしまいました。しかし一年後、Aさんの父は家出をした直後に亡くなっており、多額の借金があることが分かりました。Aさんは父の死亡後に財産を売ってしまったことになりますが、これは「処分」に当たるのでしょうか?

単純承認となるのは、相続人が相続の事実を知りながら相続財産を処分した場合、又は少なくとも被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえて処分をした場合に限られます。この事例では、Aさんは父の死亡を知らず、死亡しているという確実な予想もないため、Aさんの行為は「処分」には当たりません。

そのためAさんは、父の死亡を知ってから三カ月以内に相続放棄をすることができます。

Bさんの父が亡くなり、Bさんは父名義の預金から葬儀費用を支払いました。父には借金があったので相続放棄しようと思いますが、これらの支払は、「処分」に当たるのでしょうか。

相続財産から葬儀費用を支出することは、処分にあたらないとされています。これは、葬儀は社会的儀式として行う必要性が高く、相続財産を充当しても不当とは言えないからです。したがって、Bさんは相続放棄できることになります。
ただし、葬儀費用等が不相当に高額である場合には処分に当たると判断される可能性があります。また、仏壇や墓石の購入についても判断が難しいため、支出する前に弁護士に相談することをお勧めします。

Cさんの夫が亡くなり、生命保険金の受取人であったCさんは200万円の保険金を受け取りました。夫には借金があり、Cさんは保険金のうち100万円を借金の支払に充てましたが、借金が多額のため、相続放棄をすることにしました。Cさんが保険金を受け取ったこと、夫の借金を返済したことは「処分」に当たるのでしょうか。

生命保険請求権が相続財産にあたるか否かは、当該保険契約の内容によって決まりますが、生命保険金の受取人として特定の相続人が指定されている場合、その保険金は相続財産ではなく受取人固有の財産になります。したがって、Cさんが自分の財産である保険金を受け取ることは相続財産の処分には当たりません。

また、相続財産をもって相続人の債務を一部弁済することが処分にあたるかどうかについては議論がありますが、Cさんは自分の財産である保険金から弁済しているので、いずれにせよ相続財産の一部を処分したことにはなりません。
なお、生命保険金の受取人を指定せず、保険約款に「被保険者の相続人に支払う」という条項があった場合も、保険金は相続人の固有財産となるので結論は変わりません。

Dさんの父が亡くなりました。父は生前他人にお金を貸していたので、Dさんは返済するよう通知を送り、お金を受領した後使ってしまいました。しかしその後父は他の人から多額の借金をしていることが分かり、Dさんは相続放棄をしようと思います。債権を取り立てる行為は、「処分」に当たるでしょうか。

被相続人の有していた債権について、債務者に請求すること自体は、時効中断に必要な行為でもありますので相続財産の管理に資する行為であり、処分には当たらないと考えられます。

また、取り立てた金銭を単に保管しているにとどまれば、処分には当たらないでしょう。しかしこの事例では、Dさんは債務者に請求した上、返済されたお金を受領し、使っているので、相続財産の処分に当たると判断されます。

Eさんの母が亡くなりました。Eさんは、母の遺品のほとんど全てである宝石と着物を、形見分けとして親戚と分けました。Eさんは相続放棄をしたいと考えていますが、この形見分けは「処分」に当たるでしょうか。

形見分けは、親子や夫婦などの情愛に基づいたものなので、処分に当たらないと判断される場合が多いです。しかし、処分にあたるかどうかは遺品の量や価値に照らして決まるので、高価な衣類や宝石類などを分配した場合、もはや形見分けの範囲を超え、処分に当たると判断されることになります。

この事例では、宝石や着物が高価で財産的価値があれば、処分に当たり、Eさんは相続放棄できないという結論になりそうです。

3 まとめ

今回は、単純承認とみなされる行為についてご説明しました。ある行為が相続財産の処分に当たるかどうかは、個別の事情を見て初めて決まるものであり、ご自身で判断されるのはとても危険です。もし行為が相続財産の処分に当たってしまった場合、その行為を撤回して相続放棄をすることはできません。

しかし、身内の方が亡くなられた場合、遺品の整理等をしない訳にもいかないでしょう。ですから、遺品を整理する前に相続について経験豊富な弁護士に相談し、安易に行動しないことが大切となります。また、相続放棄の手続についても弁護士に任せると安心です。