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特別受益での紛争

民法改正で相続はどう変わったの?押さえておくべきポイント ◆特別受益の持戻し免除の意思表示の推定◆

2021.02.17

40年ぶりの民法改正によって、相続に関する法律・制度が大きく変わっています。

前回は、配偶者居住権および配偶者短期居住権についてご説明しました。

前回の記事はこちら

今回は、その続きとして、特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定と預貯金の仮払い制度について、具体的に説明をしていきます。

※この改正民法は、基本的に法律の施行日より後に発生した相続、つまり施行日より後に被相続人がお亡くなりになったケースでのみ適用されます。施行日より前に被相続人がお亡くなりになられたケースでは、あくまで改正前の民法が適用されることになりますので、ご注意ください。

1.前回のおさらい

今回の法改正で、相続に関して変わったのは大きく記載すると以下の項目です。

①配偶者居住権、配偶者短期居住権の新設
②特別受益の持戻し免除の意思表示の推定
③預貯金の仮払い制度の創設
④自筆証書遺言の方式の緩和、自筆証書保管制度の創設
⑤遺留分の算定方法の見直し、遺留分減殺請求の効力の見直し
⑥権利取得の対抗要件の見直し
⑦特別寄与料の新設

今回は、「特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定」について具体的に説明していきます。

2.そもそも特別受益ってなんですか?

特別受益とは、相続人のうち一部の人だけが被相続人から受け取った利益のことです。

例えば、父親が死亡、兄弟3人が相続人の場合で、そのうちの1人のみが、生前に父親から1000万円の贈与を受けていたとします。

この場合、父親が生きている間に先に1000万円贈与したということは、その分相続財産が1000万円減ってしまうということになりますので、先に贈与を受けた1人については、1000万円受け取れた+それ以外の相続財産も法定相続分通りにもらえることになりますが、残りの2人については、贈与が無ければ1000万円多く相続財産があったはずなのに、1000万円少ない金額で各自の相続分が計算されてしまうので、生前贈与まで含めた金額で考えるとトータルで受け取れる金額に差がでてしまい、不公平が生じてしまいます。

その不公平を是正するため、 特別受益を受けた相続人がいる場合は、その特別受益の額を相続財産の総額に戻したうえで、相続分を計算することになっています。

つまり、1000万円の生前贈与がなかったものとして相続分を計算することを「特別受益の持ち戻し」というのです。

3.特別受益の持ち戻しで問題になっていたこと

前述した親子間での贈与というケース以外でも、配偶者に自宅を生前贈与したというのも、特別受益にあたります。

その際、「特別受益の持ち戻しを免除する」という意思表示があれば別ですが、その意思表示が無かった場合は、相続が発生した後に、自宅を特別受益とした持ち戻し計算が必要になります。

その場合に、問題視されていたのが、配偶者が自宅以外の財産を相続できなくなってしまう可能性があるということです。

例えば、夫が妻に2000万円の自宅不動産を生前贈与したとします。

その後、夫が死亡し、相続財産として預貯金が2000万円残っていた場合、妻が受けた生前贈与の2000万円は、贈与が無ければ被相続人の財産に含まれていたものになりますので、相続財産に戻すことになり、相続分を計算する際の財産額は4000万円になります。相続人が妻のみであれば、自宅も預貯金も全て取得ができるのでとくに支障はないでしょう。

しかし、仮に相続人が妻と子供1人だった場合、法定相続分はそれぞれ二分の一ずつになりますので、お互い2000万円ずつ相続できる計算になりますが、妻は既に生前贈与で2000万円の財産を受け取っていますので、法定相続分通りに相続をするとなると、自宅以外の財産を相続できなくなってしまいます。

長年生活してきた自宅はあるかもしれませんが、それ以外の預貯金を一切もらえなくなってしまうとなると、この先の生活にも困ってしまいますよね。

そこで、今回施行されたのが、特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定という制度です。

4.特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定

特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定とは、要件を満たしていれば、居住用不動産の贈与を受けても相続発生後の持ち戻し計算が免除されるという制度です。

・婚姻期間が20年以上であること
・居住用の不動産であること
・遺贈または贈与であること

もちろん、遺言書などで特別受益の持ち戻し免除の意思表示がなされていれば良いのですが、日本においては遺言書を当たり前に全員作成する文化がありません。そのため、持ち戻し免除の意思が被相続人にありながらも、何らその意思表示がなされていないケースが多数見受けられますので、上記の3点を満たしている場合は、被相続人が特別受益の持ち戻しを適用しないという意思表示をしたものと推定されるというものです。

これにより、配偶者は自宅不動産を含めずに、相続財産を受け取ることができるようになりますので、居住用不動産の確保がしやすくなることに加えて、配偶者にとって有利な形での相続が実現できるようになりました。

5.気を付けるべきポイント

前述したように、配偶者にとってはメリットの大きい制度ではありますが、気を付けておかなければいけない点もあります。

まずは、婚姻期間の定義としては、法律婚に限定されていますので、内縁の場合については婚姻期間としては認められません。加えて、対象の不動産は居住用不動産と定められていますので、遺贈もしくは贈与が行われた際に住居として使用されていない不動産では要件を満たしませんので注意しましょう。

また、あくまでこれは推定ですので、万が一、被相続人自身が持ち戻し免除をしないという意思を表示したことが確認できる何かが出てきた場合は、推定は覆りますので、通常通り持ち戻し計算が必要になります。

まとめ

今回の民法改正で持ち戻し免除の推定が認められることによって、配偶者が居住用不動産を獲得しやすくなりますので、残された配偶者にとっては、よりメリットの大きいものになったかと思います。

ですが、譲り方によっては要件を満たさない場合もありますので、ご不安な場合は専門家にご相談のうえで進められることをお勧めします。

もちろん、推定などに頼るのではなく、被相続人が遺言書を遺して、明確に意思を表示していれば問題ないことですので、まずはご自身の財産の遺し方について、専門家と相談しながら決めてみてください。

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