遺産相続

遺産分割協議の方法 ~②相続財産の取扱いと調査~

2021.02.21

有効な遺言がない場合、被相続人の遺産(相続財産)は、当然に分割されるものを除き、共同相続人全員の共有となります。

当該共有状態を解消し、相続人のうちのいずれか1人の単独所有とするためには、共同相続人全員が関与して遺産分割協議を行うこととなりますが、そもそも被相続人が生前どのような財産を有していたかは、本人以外にはわからないことも多いというのが実情です。

そこで、今回は、遺産分割協議の対象となる相続財産の範囲と、その調査方法等につき解説します。

1 各種の遺産(積極財産)の取扱い

⑴ 不動産

遺産中に被相続人の所有していた土地建物等の不動産がある場合、当該不動産は、遺産分割又は共有物分割の手続がとられるまで、共同相続人の共有財産となるのが原則です。

⑵ 金銭債権

金銭債権その他の可分債権は、法律上当然に分割されて各相続人に帰属しますので、原則として、遺産分割を経ることなく、各相続人が法定相続分の限度で権利を行使することができます(最高裁昭和29年4月8日判決等)。

もっとも、判例上、預貯金債権については上記の理は当てはまらず、相続開始によって当然に分割されず、遺産分割の対象となるものとされていますので、原則として、各相続人が単独で権利を行使することはできません(最高裁大法廷平成28年12月19日判決,最高裁平成29年4月6日判決)。

また、従来の銀行実務上も、共同相続人の1人が単独で預金の払戻しを請求しても、銀行側がこれに応じず、払戻請求をする者がその他の相続人から委任状を取得するなどして相続人全員からの請求という形をとるか、又は払戻請求を行う者が当該預金債権を取得する旨の遺産分割協議書を提示するといった方法によらなければ、預金債権の行使ができないといった実情があったようです。

なお、近時の法改正により、各相続人が相続開始時における預貯金債権額の3分の1に自身の法定相続分を乗じた金額(ただし、上限は150万円。)の範囲で、単独での預貯金債権の払戻が可能となりました(民法909条の2前段)。

⑶ その他の財産

不動産、預貯金の他、被相続人の遺産に含まれるものとしては、動産(家具家電,什器備品,宝飾品等)や有価証券等が挙げられます。いずれも共同相続人間の協議によって帰属を決めることとなりますが、有価証券等は、分割協議後に名義変更等の手続が必要となることが考えられますので、留意が必要です。

なお、系譜、祭具、墳墓等の「祭祀財産」については、原則として、祖先の祭祀を主宰すべき者がこれを承継します。主宰者は、遺言又は遺産分割協議書で定められることもありますが、相続人間で協議がまとまらないときは、家庭裁判所の審判事項となります。

これに関連して、香典は喪主への贈与であるため、一般的には香典返し及び葬儀費用に充当されますが、余りが生じた場合の取扱い等は法令等による定めはないため、遺産分割協議書に記載しておくのが良いでしょう。

⑷ 遺産の変動

遺産は不変のものではなく、収益を生じたり(遺産たる不動産を他人に賃貸していた場合の賃料、株式の配当等)、滅失して代償物に転化したり(財産が火災で滅失した場合の保険金請求権や、売却処分した場合の代金等)、管理費用の支出が必要となったりすることがあります。

これらはいずれも、被相続人の死後に生じたものですから、厳密には遺産の範囲には含まれませんが、共同相続人間の公平や簡易迅速な権利の実現の観点から、他の遺産と一括して遺産分割手続の対象とする(管理費用については、その額を遺産から控除する)ことができるとされています。

2 補足-消極財産と遺産以外の財産について

⑴ 消極財産(債務)

ア. 積極財産のみならず、消極財産(マイナスの財産)である債務も、一身専属性のあるものでない限り、相続人に包括的に承継されることとなります(民法896条)。

遺産中の債務(ここでは、不動産の明渡債務のような不可分の債務は除外し、金銭支払債務等の可分債務を念頭に記述します。)については、法定相続分の割合に従って各相続人が相続することとなります。

そのため、遺言や遺産分割協議において、相続人のうち誰がどの程度の割合で遺産たる債務を負担するかが決定されたとしても、その負担割合は債権者に対抗することはできず、債権者は、各相続人に対して法定相続分の割合で債務の弁済を請求することができます。

イ. ただし、相続放棄をした相続人は、初めから相続人とならなかったものとみなされ(民法939条)、遺産たる債務を弁済する責任を負わないこととなりますので、被相続人の債権者は、相続放棄をした債権者に対しては、債務の弁済を請求できなくなります。

したがって、遺産中の積極財産よりも債務の方が多額に上ることが見込まれる場合には、家庭裁判所で申述手続を行い、相続放棄をすることも検討する方が良いと考えられます。

⑵ 被相続人の死亡によって生じる権利で被相続人に属さないもの

死亡退職金、遺族年金、受取人が被保険者以外の者(妻子等)と指定されている生命保険金等は、給付を受ける権利を有する者や保険金受取人が固有の権利として取得するため、遺産とはなりません。

もっとも、死亡退職金等の受給や生命保険料の受領の額その他の事情いかんによっては、当該受給又は受領の事実につき、遺産分割に当たって考慮すべきものとされる場合もあります。

3 相続財産の調査

⑴ 不動産

ア. 被相続人が生前居住していた自宅土地建物は、生前の被相続人の所有物であり、遺産に含まれる可能性があります。

他方、調査したところ、当該自宅土地建物は他人名義の土地で、被相続人が第三者から借り受けていたことが判明するといったこともあり得るでしょう。

また、被相続人自身の生前の話や、被相続人宛の固定資産税納付通知書等が届いたといった事情から、被相続人が自宅以外にも不動産を所有していることが見込まれる場合にも、遺産分割に当たって漏れがないよう、調査を行うことが望まれます。

イ. 被相続人名義の不動産の有無を調査する方法としては、登記事項証明書、公図、名寄帳(土地家屋課税台帳,固定資産課税台帳)等を取得することが挙げられます。

例えば、被相続人が生前居住していた土地建物の登記情報を取得すれば、当該土地建物の所有者として登記されている者が分かりますので、被相続人の遺産に含まれるか否かを知ることができます。

また、名寄帳を取得すれば,同一の市町村の範囲内に限られるとはいえ、被相続人が当該市町村内に課税対象となる不動産を有していたか否かが分かります。

⑵ 預貯金

前記のとおり、被相続人が有していた預貯金債権は遺産分割の対象となりますので、まずは、被相続人名義の預金通帳やキャッシュカードを整理する必要があるでしょう。

また、最新の通帳がなく、残高が不明という場合には、金融機関に照会を行って取引履歴や残高証明書を発行してもらい、これによって遺産に含まれる額を確定させることが考えられます。特に、預貯金については一部の相続人による使い込みや隠匿が問題となることもあるため、取引履歴を確認し、不審な入出金の履歴がないかを確認することが望ましいでしょう。

更に、ある金融機関に預貯金口座を有しているか否かが不明であるという場合には、口座の有無を含めて照会を行うことも、選択肢の1つです。

なお、金融機関への照会時には、被相続人の死亡の事実や相続関係を証明する資料を求められることがあるため、予め戸籍謄本等の用意が必要となります。

⑶ 保険・有価証券

被相続人が加入していた保険で受取人が被相続人自身となっているもの、及び被相続人名義の有価証券についても、遺産分割の対象となります。

これらについては、被相続人の所持品の中から保険証券等が見つかったり、保険会社又は証券会社等から被相続人に対して何らかの通知文書・案内文書等が送付されたりすること等により、その存在が判明することがあります。この場合には、保険会社や証券会社に、給付額や証券残高等について照会をすべきこととなるでしょう。

また、証券会社等からは何ら通知は来なくとも、被相続人が生前、保険や有価証券の存在を口にしていたような場合には、相続人としては、念のため現存すること及びおよその額を把握することが望ましいため、上記と同様、対象の保険会社、証券会社等に照会をかけることが考えられます。

4 ポイント

被相続人が、自己の所有する財産の全容を詳らかにしないまま死亡することはままあり、調査をしたところ想定外の財産(又は債務)の存在が判明するということも少なくありません。

いったん相続人間で遺産分割協議をした後に新たな遺産が発見された場合、当該遺産については改めて共同相続人全員で分割協議を行うことが必要となります(当初の分割協議書において、協議後に発見された遺産を取得する者を定めておくこともできますが、当該遺産の価額が相当程度高額であるような場合には、そのような定めが常に有効となるとは言い切れず、トラブルの元となります。)。

そのような事態に陥らないよう、遺産分割協議前に調査を尽くし、可能な限り遺産の内容を確定させておくことが肝要といえます。