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相続のトラブル・紛争

10年前に遺産分割協議書を偽造されていた!もう時効?

2017.08.27

10年前に遺産分割協議書を偽造されていた!もう時効?

<相談内容>
10年前に父が死亡しました。相続人は父の子である私と父の後妻の2人ですが,遺産分割協議はまとまりませんでした。しかし,後妻は父の遺産(不動産,預貯金)を自分が相続したとして偽造の遺産分割協議書を作り,10年前に勝手に名義を変えていたようで,私は5年前にその事実を知りました。先日,私の相続分である遺産の2分の1を返すよう後妻に求めたのですが,「名義を変えてから10年も経つし,あなたもそれを知って5年経つんでしょう。もう時効よ。それに不動産はもう他の人に売ってしまったから返せない。」と言って応じてくれません。父の遺産を取り戻す方法はないのでしょうか。

 この事例では,相談者の相続権が侵害されています。今回は,相続回復請求権についてご説明していきます。

1 相続回復請求権とは

 相続回復請求権とは,真実の相続人(「真正相続人」といいます。)が,相続人であると自称している者(「表見相続人」といいます。)に対し,侵害された相続権の回復を求めることができる権利です。
 相続回復請求権の時効は民法で定められており,相続権侵害の事実を知ってから5年間,相続が開始したときから20年間権利を行使しないと権利自体が消滅してしまいます。
 上記の相談事例では,①後妻は表見相続人ではなく,相続権を有しています。そのような場合にも相続回復請求権を行使できるかという問題,②相談者が相続権侵害を知ってから5年が経過しています。これが時効にかかり,相続回復請求権が消滅しないかという問題,③遺産が第三者に処分されてしまった場合にも取り戻すことができるかという問題があります。以下,それぞれについて見ていきましょう。

2 他の共同相続人に請求する場合

 表見相続人ではなく,共同相続人間で相続権が侵害されている場合も,相続回復請求権を使うことができます。なぜなら,共同相続人間の紛争でも,自己の相続持分を超える部分について他の相続人の相続権を侵害することは,侵害している範囲においては表見相続人が真正相続人の相続権を侵害している場合と異ならないからです。
 では,共同相続人間でも相続回復請求権が行使できるとして,時効にかかることはないのでしょうか?相続回復請求権が行使できるとしても時効にかかるのであれば,遺産を取り戻すことができませんので,共同相続人間で時効をどのように考えれば良いかが問題となります。これについては,侵害をした相続人が,他に相続人がいることを知っているか,知らなくてもそう信じたことに合理的理由がない場合には,時効の規定が適用されないとされています。他に共同相続人がいることを知らず,知らなかったことに合理的理由があるというケースは,実際にはほとんどないでしょう。
 今回の事例では,後妻は共同相続人である相談者の存在を知っているので,時効にはかからず,相談者は相続権侵害を知って5年以上経った現在でも,相続財産の返還を請求することができます。なお,後妻が求めに応じないときは,訴訟を提起することになります。今回は不動産が侵害されているので,相続登記の更正登記を求める裁判を申し立てることになるでしょう。

3 第三者に処分された場合

 不真正相続人から相続財産を譲り受けた第三者に対しては,不真正相続人の第三者に対する処分の無効を主張して,所有権に基づく返還請求ができます。時効については,表見相続人について判断すべきとされ,表見相続人が時効援用できないときは,譲り受けた第三者も援用できないことになります。
 今回の事例でも,後妻は時効を援用できないため,不動産を譲り受けた第三者も時効を援用することはできず,相談者は不動産を譲り受けた第三者に対し,返還を求めることができます。
 ただし,以下のように返還請求が認められない場合があるので,注意が必要です。

⑴ 遺産が動産の場合

 今回の事例で,侵害された遺産が貴金属のような動産だとします。この場合,第三者が,貴金属が後妻所有の物だと信じて譲り受けたのであれば,第三者は所有権を取得します。そのため,相談者は返還を求めることができなくなります。(これを,「即時取得」といいます。)

⑵ 登記を放置していた場合

 もし,後妻名義の登記がされていることを相談者が知ったまま放置しているうち,後妻所有という登記の外形を信じて買い受け,移転登記までした第三者が現れた場合には,相談者は返還を求めることができなくなる可能性もあります。(これを,「94条2項類推適用」といいます。)相談者が後妻名義の登記を放置したことに,どの程度の帰責性があるかという点が問題になります。

4 まとめ

 今回は,相続回復請求権についてご説明しました。
 返還請求権が時効にかからないといっても,安心して放置するのは禁物です。長年経過するうちに,後妻が遺産を売却し,ご説明したように場合によっては第三者に移転された遺産の取戻しができなくなることもあります。法律関係が複雑化する前に,一刻も早く弁護士に相談し,法的な手続をとることをお勧めします。

 

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