遺産相続

相続時精算課税ってなに?

2020.01.11

相続時精算課税とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。

贈与が行われた場合には贈与税の納付が必要となりますが、上記条件を満たし、必要な手続きを履践した場合には、納付すべき贈与税が軽減され、さらに、贈与者が死亡した際の相続税計算時において、既に支払った贈与税を控除することができます。

このように、相続時精算課税の制度は、贈与税・相続税を通じた課税が行われる制度です。

1.適用対象者

対象となる当事者は、以下の通りです。
①贈与者:贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母又は祖父母
②受贈者:贈与を受けた年の1月1日において20歳以上(2022年以降は18歳以上)の者で、贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人又は孫にあたる者

2.適用手続

相続時精算課税を選択しようとする受贈者(子又は孫)は、その選択に係る最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告書の提出期間)に納税地の所轄税務署長に対して「相続時精算課税選択届出書」を受贈者の戸籍の謄本などの一定の書類とともに贈与税の申告書に添付して提出することとされています。

3.相続時精算課税選択の特例

令和3年(2021年)12月31日までに、父母又は祖父母からの贈与により、マイホームの新築、取得又は増改築等の資金援助を得た場合で、一定の要件を満たすときには、贈与者がその贈与の年の1月1日において60歳未満であっても相続時精算課税を選択することができます。

4.相続時精算課税の選択と相続税の申告義務

上記の通り、相続時精算課税の選択を行った場合、その贈与者が亡くなったときには、相続時精算課税を適用して贈与を受けた財産を相続財産に加算して相続税の計算を行いますが、この計算の結果、相続税の基礎控除額以下であれば相続税の申告は必要ありません。

ただし、相続税の申告の必要がない場合でも、相続時精算課税を適用した財産について既に納めた贈与税がある場合には、相続税の申告をすることにより還付を受けることができます。
この還付を受けるための申告書は、相続開始の日の翌日から起算して5年を経過する日までに提出しないといけません。

5.相続時精算課税制度のメリット

(1)贈与税なしで一度に2,500万円まで贈与できる

相続時精算課税制度の特徴は2,500万円の非課税枠です。通常年間110万円を超える資産を贈与すると贈与税がかかってしまいますが、相続時精算課税制度を利用すれば一時的に多額の資金を贈与したい場合に贈与税の負担を抑えることができます。

(2)遺産分割がしづらい財産を事前に贈与できる

住宅や土地などの不動産は遺産分割がしづらく、相続時に争いのもとになることが多々あります。遺産を分けるために不動産の処分に追い込まれるケースもあります。
生前に財産を誰に譲るかを決めて実際に贈与することで、死亡した後の相続争いを未然に防ぐことができます。

(3)収益物件の贈与で財産の増加を防げる

賃貸アパートのような収益物件を所有していると、賃料収入が蓄積されて財産が増加します。これは、死亡時に相続税の対象となる遺産の増加を意味しています。収益物件を生前に贈与しておくことで、相続税の対象になる遺産の増加を防ぐことができます。

(4)将来値上がりしそうな財産を贈与すると相続税の節税になる

実際に相続が発生した時には「贈与した当時の価額」を相続財産に加算しなければなりませんが、贈与した後で値上がりが予想されるような財産を贈与した場合には相続税の節税になります。

例えば中小企業オーナーが業績好調の自社株式を後継者である子に対して、相続時精算課税制度を使い2,500万円で贈与した場合がそれにあたります。贈与後にどんどん株価が上昇し、父死亡時に自社株式の相続税評価が1億円になっていたとしても贈与時の2,500万円で相続税を計算できます。

このように将来値上がりしそうな財産を贈与しておくことで相続税の節税になるケースがあります。

6.相続時精算課税制度のデメリット

(1)以後110万円の贈与税の非課税が使えなくなってしまう

相続時精算課税制度の最大のデメリットですが、一度でもこの特例適用を選択すると年間110万円以内の贈与であれば贈与税が非課税になる暦年贈与を今後使えなくなってしまいます。

毎年110万円を生前贈与する相続税の節税対策をとることができなくなるため、将来的に相続税の節税対策として生前贈与をする可能性がある場合には注意が必要です。

(2)将来贈与した財産が値下がりや消滅した場合には相続税の負担が大きくなる

これは先に挙げたメリットと逆の話です。贈与した財産が相続時に価値が急落していたり消滅していたりした場合でも贈与時の価額で相続財産に上乗せされます。これにより、生前贈与しなかった場合に比べて相続税の負担が大きくなってしまいます。

例えば相続時精算課税制度を使ってA社の上場株式を2,500万円で贈与したとします。相続時にA社が倒産して価値がゼロ円になっていたとしても2,500万円を相続財産に加算しなければならないのです。

このため相続時精算課税制度を使って時価の変動がある財産を贈与する場合には慎重に検討することが必要です。

(3)自宅の小規模宅地等の特例が使えない

相続時精算課税制度を利用して土地を贈与した場合、相続発生時に小規模宅地等の特例を使えないというデメリットがあります。

例えば父と同居の子が2,500万円分の自宅の土地を相続時精算課税制度により贈与を受けたとします。父死亡後にはこの2,500万円を相続財産に加算することになりますが、その際には自宅の土地の相続税評価額が8割も減額される小規模宅地等の特例の対象とはなりません。

相続時精算課税制度を利用していなければ、子が自宅の土地を相続した場合、小規模宅地等の特例を適用することができます。

小規模宅地等の特例を利用して評価額を算出すれば、
2,500万円×▲80%=▲2,000万円
となり、2,000万円も減額できていたことがわかります。

このように相続時精算課税制度によって贈与した土地については、将来相続時に小規模宅地等の特例の対象となりませんので、小規模宅地等の特例が適用できる可能性がある財産を贈与する際には注意が必要です。

(4)手続きやコストが増える

相続時精算課税制度を利用する場合は、納税額がなくても贈与税の申告をしなければなりません。
また、不動産の相続では登録免許税が0.4%で済みますが、生前贈与では登録免許税は2.0%になり、不動産取得税もかかる点がデメリットとしてあげられます。

7.まとめ

最後に、節税効果という観点だけから見た場合、この相続時精算課税制度は基本的に値上がりするもの等を除いて節税効果はありません。その本質は相続発生時までの課税の先送りだけをしていると考えることもできます。

しかし、そもそも相続税の基礎控除以下の財産しかない場合には、相続発生時に持ち戻しても相続税がゼロであるため、税負担が生じません。このような相続税に関係ない人が子供にマイホームを購入する際に頭金2500万円を渡すときに相続時精算課税制度を使うと無税になります。

このように、相続時精算課税が有効に働くタイミングがいつなのかという判断は、実はとても難しいです。利用すべきかどうかは専門家に相談の上、決められた方が良いでしょう。