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相続のトラブル・紛争

遺産分割協議が困難な場合はどうすればいい?

2017.09.08

遺産分割協議が困難な場合はどうすればいい?

<相談内容>
父が亡くなり,相続人は母と私と弟です。母は認知症で判断力が衰え,私の名前さえ分からない状態なので,遺産分割の話し合いは到底できません。また,弟は5年前に大きな借金を抱えて以来音信不通で,現在どこにいるのかも分からない状況です。父の遺産分割協議は,どのように進めたら良いでしょうか。

遺産分割協議を行う場合,相続人全員で協議を行う必要があります。今回は,相続人の中に失踪者,高齢者,障がい者等がいる場合の遺産分割協議方法についてご説明していきます。

1 失踪者がいるとき

⑴ 7年以上生死が不明な場合

最近,Aさんの父が亡くなり,相続人は母とAさんと弟です。弟は10年前から行方不明で,遺産分割協議ができません。弟には息子がいます。Aさんは何をすれば良いでしょうか。
 7年以上生死が不明な場合,利害関係人の請求により,家庭裁判所で失踪宣告してもらう方法があります。失踪宣告がなされると,生死不明となった時から7年間の期間満了の時に死亡したものとみなされます。この事例では,Aさんの弟は3年前に亡くなったとみなされます。したがって,父より先に弟が死亡しているため,弟の息子が代襲相続人となり,Aさんは母,甥と遺産分割協議を行うことになります。この事例とは異なり,弟に子がいないケースであれば,弟を除いた母とAさんとで遺産分割協議を行います。

⑵ それ以外の場合

 冒頭の相談事例のように,失踪期間が7年に満たない場合は,失踪宣告の申立てを行うことはできません。この場合,利害関係人は家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任申立てを行うことになります。不在者財産管理人は,不在者(失踪した人)の財産について,現状に変更をきたさない保存行為や利用・改良行為を行うことができます。また,遺産分割協議を行う場合には,不在者財産管理人が参加します。ただし,遺産分割は不在者の財産に対する処分の一種と考えられるため,不在者財産管理人の権限を超えます。そのため,遺産分割協議を成立させるためには,家庭裁判所の許可が必要となります。
 このように,遺産分割のために不在者財産管理人が必要なケースでは,誰を不在者財産管理人に選任するかも含めて検討が必要ですので,必ず相続に強い弁護士に相談しましょう。

2 判断能力が低い人がいるとき

 認知症の方,知的障害や精神障害がある方など,判断能力が不十分な方は,財産管理や身上監護についての契約や遺産分割などの法律行為を自分で行うことができません。
 遺産分割のような法律行為を有効に行うには,行為能力というものが必要です(行為能力とは,平たく言えば判断能力のようなものです。)。民法には行為能力が不十分な人を保護する制度が規定されており,程度に応じて,後見,保佐,補助という制度があります。

 特に多く利用されている後見制度は,家庭裁判所に後見開始の審判申立てを行い,成年後見人が選任されるというものです。成年後見人は,本人の財産に関する法律行為全般について包括的な代理権を持つとともに,その財産を管理する権限を持ちます。したがって,遺産分割を本人に代わって行うことが出来ます(本人の同意は要りません。)。

 冒頭の相談事例では,母の成年後見人選任を申し立てることになるでしょう。後見人は弁護士等の専門家がなることも,親族がなることもできます。ただし,例えば相談者が母の後見人となった場合,遺産分割においては母と相談者の利益が相反するので,そのまま相談者が母の後見人として遺産分割を進めることはできません。この場合は遺産分割について母の特別代理人を家庭裁判所に選任してもらうことになります。

 なお,後見ではなく保佐や補助の申立てをした場合,必ずしも本人が遺産分割協議に参加できない訳ではありません。保佐人や補助人が遺産分割を代理するには,保佐・補助開始の審判とは別に,遺産分割の代理権を保佐人・補助人に付与する旨の審判が必要です。
 この場合,遺産分割のために成年後見人を選任するとしても,遺産分割後の財産管理も合わせて行わなくてはなりません。そこまで踏まえて成年後見人を誰にすべきか決めなくてはなりませんから,必ず相続や後見に強い弁護士に相談をしましょう。

3 海外など遠方にいるとき

Bさんの父が亡くなり,相続人はBさんと妹です。妹は海外に移住しており,日本に帰ってくることはほとんどありません。Bさんは,妹とどのように遺産分割協議を進めたら良いでしょうか。
 海外にいる相続人も遺産分割協議に参加する必要があります。しかし,日本に帰国し,全員が一堂に会して協議を行う必要はありません。電話,メール,FAX等,何らかの手段によって協議を行うことになります。したがって,Bさんは妹と電話やメール等により協議を進めることになるでしょう。

 また,遺産分割協議は全員が合意すれば成立するため,必ずしも協議書を作らなければならないわけではありません。しかし,書面という形で残しておけば,後々の紛争を防ぐことができますし,不動産の登記をする場合等,遺産分割協議書が必要になることもあるため,協議書を作成することを強くお勧めします。遺産分割協議書には相続人全員の署名,押印(実印)が必要となります。不動産の登記をする際は,遺産分割協議書に加えて印鑑証明書の添付も必要です。海外にお住まいの方(日本に住民登録のない方)は,在外領事館(日本領事館等)で印鑑登録をし,印鑑証明書を発行してもらうことになります。また,実印の代わりに署名で対応し,在外領事館で署名証明書を発行してもらい,印鑑証明書に代えることもできます。

4 まとめ

 今回は,遺産分割協議が困難な場合の手続の進め方についてご説明してきました。遺産分割協議は相続人全員で行う必要があるので,一人でも欠けた状態で勝手に協議を進めないよう気を付けてください。遺産分割に参加できない相続人がいる場合には,弁護士に相談し,どう対応したら良いか助言をもらいましょう。また,後見申立てや失踪宣告の申立て,不在者財産管理人選任申立ては,ご自身で行うことも可能ですが,手続が煩雑です。申立て等を含め弁護士に依頼することをお勧めします。

 

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