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相続のトラブル・紛争

夫と一緒に住んでいた家,夫の死後も住み続けられる?

2017.11.02

夫と一緒に住んでいた家,夫の死後も住み続けられる?

<相談内容>
私は夫所有の家に,10年間にわたり夫婦で住んできました。先日夫が亡くなり,相続人は私と夫の母です。夫の母は,「この家も息子の遺産だから,あなたが住むのは納得できない。もし住むのなら私に家賃を払って。」と言ってきました。私はこの家に住み続けることができますか?また,家賃を支払わなければいけないのでしょうか。

 今回は,夫や内縁の夫が亡くなった場合に,同居していた妻は夫が所有する家に住み続けることができるか(居住権),また,夫が借りている家に住み続けることができるか(賃借権)というテーマについて福岡の弁護士がご説明していきます。

1 戸籍上の夫の場合

⑴ 居住権

 上記の相談事例で,妻は,夫が所有していた家に居住することができるでしょうか。
 遺産分割協議前,共同相続人は建物所有権を共有し,妻は自身の持分権に基づき建物全部を占有することができます。(ある物を共有する人は,単独でその全部を使用することができると民法に規定されています。)したがって,共有者である他の相続人から明渡し請求をされても,応じる必要はありません。
 では,賃料相当額を他の相続人に支払う必要はないのでしょうか。通常,単独で使用している共有者に単独使用の権原がない場合,他の共有者は自己の持分割合に応じて金銭賠償を求めることができます。しかし,共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て,遺産である建物において被相続人と同居してきた場合には,被相続人と同居の相続人との間で,相続開始から遺産分割により建物の所有関係が確定するまでの間、引き続き同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意(使用貸借契約)があったものと推認されます。したがって,遺産分割終了までは、他の相続人からの賃料相当額の不当利得返還請求に応じる必要はありません。
 上記の相談事例でも,相談者は遺産分割が終了するまで,夫の母に賃料相当額を支払うことなく家に住み続けることが可能です。

⑵ 賃借権

Aさんは,夫名義で家を借り、夫婦で住んでいました。夫が亡くなり、相続人はAさんと夫の弟です。Aさんは,夫名義で借りていた家に住み続けることができるでしょうか。
 賃借権も相続の対象となります。また,これに賃貸人の承諾は要りません。この事例では,相続人であるAさんと夫の弟が賃借権を相続し,準共有状態となります。この準共有関係を解消するためには,遺産分割協議が必要ですが,協議が成立するまでの間の賃借権の利用関係は,持分の過半数で決められます。もっとも,共有物の過半数を超える持分を有している場合でも、単独で占有する他の共有者に対して当然には明渡請求できません。
 この事例では,Aさんに4分の3の持分があるため,遺産分割協議がまとまらない場合でも居住し続けることができます。

2 内縁の夫の場合

⑴ 居住権

Bさんは内縁の夫と共に,夫の所有する住居兼店舗で20年間クリーニング店を営んできました。夫が亡くなり,相続人は夫の前妻の子です。夫の子は,住居は自分が相続するとしてBさんに明渡しを求めています。Bさんは住み続けることができるでしょうか。
 内縁関係の場合,内縁配偶者は相続人にならないため,建物の共有持分権を取得しません。ただし,内縁の妻が建物の取得や維持のために負担した出費や貢献度等から,建物が被相続人と内縁の妻の共有財産だと認められる場合もあるでしょう。
 そして,内縁の夫婦がその共有する不動産を居住又は共同事業のために共同で使用してきたときは,一方が死亡した後は他方がその不動産を単独で使用できる合意が成立していたと推認できるとされています。そのため,内縁の妻は,相続人との間で共有物の使用についての合意を変更するか,実質的共有関係を解消するまでの間,従来通りその不動産を使用することができます。また,内縁の妻に所有権や共有持分権が認められなかった場合でも,相続人が明渡し請求を行うことが相続人による権利濫用に当たると判断されることがあります。通常,内縁夫婦で居住していた家を相続人が使用しなければならない差し迫った必要性はないので,明渡し請求は権利の濫用に当たり,当面の間,内縁の妻の住居は確保できるでしょう。
 この事例では,Bさんは夫と共に自宅で営業し収益を上げていることから,建物は夫とBさんの共有だと認められるでしょう。その上で建物を居住・共同事業のために共同で使用してきたので,夫の死後も当面はBさんが単独で使用することができます。

⑵ 賃借権

Cさんは,内縁の夫名義で家を借り、内縁夫婦で住んでいました。夫が亡くなり、相続人はいません。Aさんは,夫名義で借りていた家に住み続けることができるでしょうか。
 建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合、事実上夫婦と同様の関係にあった同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継することができます(借地借家法36条)。この事例でも,Cさんは内縁の夫の賃借人としての権利義務を承継し,家に住み続けることが可能です。
 また,内縁の夫に相続人がいた場合でも,内縁の妻は相続人が承継した権利を援用して,継続して居住することもできます。あくまでも賃借人は相続人で,内縁の配偶者は共同賃借人ではないので賃料支払い義務を負いません。そのため,相続人が賃料を支払わず契約が解除された場合には,内縁の妻は保護されないことになります。

3 まとめ

 今回は,配偶者・内縁配偶者が亡くなった際,同居していた人が住居に住み続けることができるかというご説明をしました。今回の事例はいずれも遺言がないケースですが,もし遺言の中に,住居を取得する人についての記載があれば,親族間で揉めることなく解決するでしょう。
ご自身が誰かとお住まいで,ご自身が亡くなった後も相手が住み続けるという場合には,自分が亡くなった後どうするのかという遺言を残すのが,残された人にとって最善です。将来無用な揉め事を起こさないためにも,遺言を作りましょう。書き方が分からない,又は特定の人にのみ有利な遺言を残して他の相続人とトラブルにならないか,という不安をお持ちの方は,遺言作成の経験豊富な弁護士に相談することをお勧めします。

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