遺産相続

遺留分の放棄ってできるの?

2017.09.13
遺産相続|弁護士ニュース

遺留分の放棄ってできるの?

<長女Aさんの相談>
私の父はラーメン店を営んでおり,現在弟が二代目として父と一緒にお店を切り盛りしています。先日父から「俺の財産はこのラーメン屋の店舗兼自宅の土地建物しかない。店を継いでくれる息子に全部相続させたいと思ってるから,Aは遺留分を放棄してくれないか?」と言われました。父の相続人は私と弟の2人です。私は父の気持ちも分かりますし,今まで学費や結婚式の費用を出してもらっているので,放棄しても構わないと思っています。しかし,父の生前に相続放棄はできないと聞いたのですが,遺留分の放棄はできるのでしょうか。

 遺留分は,一定の法定相続人に保障されるものです。Aさんの父の相続人は子2人なので,Aさんは父の相続財産の4分の1(2分の1×2分の1)の遺留分を有します。相続開始後に遺留分放棄の意思表示をすることは自由になし得ます(遺留分減殺請求をしなければ,放棄をしたのと同じことになります)が,相続開始前に遺留分を放棄することは可能でしょうか。今回は遺留分の放棄についてご説明していきます。

1 遺留分放棄の手続

 相続放棄は,相続の開始後に,具体的に発生した相続について相続人が放棄をするものなので,相続の開始前に放棄をすることはできません。これとは異なり,遺留分権利者が相続開始前に遺留分を放棄することは可能です。しかし,親が一部の子に対し恣意的に遺留分を放棄させることを防止するため,家庭裁判所の許可を得ることが必要とされています(民法1043条1項)。
 申立てを受けた家庭裁判所は,申立てが自由意思に基づくものか,放棄の理由に合理性・必要性があるか,代償性があるか(放棄と引替えに何らかの代償があるか)といった点などについて審理し,許可・却下の審判をすることになります。
 家庭裁判所の許可がなされて効力が生じた遺留分の放棄でも,その後,許可審判の基礎となった客観的事情に明白かつ著しい変更が生じ,許可審判の目的とした合目的性が失われて許可審判を維持することが著しく社会的実情に合致しないと認められるような場合には,許可審判の取消しが認められています。

2 申立てが却下された審判例

 以下の例では,申立てが却下されています。同じようなケースで許可されることは難しいでしょう。
【神戸家審昭和40年10月26日】
5年後に300万円の贈与を受ける契約のもとになされた遺留分放棄の許可申立てについて,将来この契約が履行されないおそれなど,申立人に生じるかも知れない損害を考慮して却下した事案。

【大阪家審昭和46年7月31日】
申立人の結婚に反対していた申立人の両親が,結婚を翻意しなかった申立人に対し,用意していた遺留分放棄申立書への署名捺印をさせたという事案について,本件申立てに至った理由は両親からの結婚問題に対する強度の干渉の結果であり,憲法24条1項の趣旨に照らし,本件申立てを許可するに足る合理的理由がないとして却下した事案。

3 遺留分放棄の効果

 遺留分の放棄をすると,放棄をした相続人は,相続開始後における遺留分減殺請求権の行使ができなくなります。
ただ,共同相続人の一人がした遺留分放棄は,他の共同相続人の遺留分に影響を与えるものでなく(1043条2項),他の共同相続人の遺留分が増加することはありません。しかし,被相続人にとって自由に処分しうる相続財産が増加することにはなります。
 遺留分の放棄は相続放棄とは異なるため,遺留分放棄をした者も,相続放棄の手続をしない限り,被相続人の死後に相続人となります。つまり,遺留分放棄をした者も遺産の相続をすることは可能ですし,被相続人に債務があった場合は,債務を承継することになります。債務を有していた被相続人が,積極財産についてすべての他の者に遺贈・贈与していた場合には,遺留分放棄をした者は,積極財産は一切引き継がないにもかかわらず,相続債務だけ承継するという極めて不利な結果になるため,このようなケースでは相続放棄を検討することが必要です。

4 遺留分放棄者の子が代襲相続する場合

<Aさんの子の相談>
私の母Aは,冒頭の相談をした後に遺留分の放棄をしましたが,その次の年,祖父よりも先に亡くなってしまいました。先日祖父が亡くなり,相続人は母の弟である叔父と,母の代襲相続人である私です。祖父の遺言には「財産一切を息子に相続させる。」と書いてありました。私としては,祖父の遺産を少しでももらいたいのですが,叔父は「お前のお母さんは遺留分の放棄をしてるから,遺産はあげられないよ。」と言っています。母が遺留分の放棄をしてしまったら,代襲相続人の私も放棄をしたことになるのでしょうか。
 代襲相続人は,被代襲者が生存していれば相続したであろうものを代わりに相続する人です。したがって,被代襲者が遺留分を放棄していた場合には,遺留分の放棄がなされたものを代襲相続することになります。
 この事例でも,Aさんの子は,遺留分減殺請求をすることはできません。また,相続財産は全てAさんの弟が取得する旨の遺言が存在する以上,Aさんの子は何ら財産を相続することはできません。

5 まとめ

 今回は,遺留分の放棄についてご説明しました。被相続人にとっては自身の死後,相続人が遺留分減殺請求などをして争わないよう,あらかじめ遺留分の放棄をしてもらうと安心ではあります。しかし,相続人との関係性が悪化しており,事前にそのような対策をとれないこともあります。また,遺留分放棄を求める相手方が,例えば他の相続人が知らない間に認知されていた子など,全く見ず知らずの相手であることもあり,そのような場合は協議が難航する場合が多々あります。

そのため,遺留分の放棄手続を行う際には,弁護士に相談することをお勧めします。また,事前の放棄が難しい場合には,遺留分を侵害しない形での遺言書を作成するなど,他の方法によっても遺留分を巡る紛争リスクを予防することは可能です。そのため,弁護士に相談する際には,遺留分放棄によって実現したい目的をきちんと伝えることが重要です。

 

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