遺産相続

親の借金は全額支払わなければならないの?

2017.10.10
遺産相続|弁護士ニュース

親の借金は全額支払わなければならないの?

<相談内容>
先日,父が交通事故で亡くなりました。相続人は兄と私です。父は会社を経営しており,兄が会社を継ぐことになっています。父には会社の債務について1000万円の個人による連帯保証債務がありました。兄は「俺が会社を継ぐから借金も全部相続する。お前は払わなくていいよ。」と言ってくれているのですが,法的に私が責任を負うことはないでしょうか。また,交通事故の加害者に何か請求したいのですが,方法はありますか?

 相続が発生した場合,被相続人の不動産や預貯金のようなプラスの財産だけでなく,借金のようなマイナスの財産も承継することになります。今回は,債務や請求権をどのように相続するのかについて福岡の弁護士がご説明していきます。

1 債務

⑴ 金銭債務

 金銭債務は,法定相続分に応じて当然分割承継されます。例えば,被相続人が500万円の債務を負っており,相続人が配偶者,子2人という場合には,配偶者が250万円(2分の1),子2人がそれぞれ125万円(4分の1ずつ)の債務を負うことになります。
 遺産分割において,被相続人の債務について取り決めることも可能です。また,共同相続人間で,特定の相続人に相続債務を引き受けさせるとの合意をすることもできます。
 しかし,このような分割協議や合意は,債権者に対して効力が及びません。もし相続人のうち誰か1人が債務を全額負うという取り決めをしていたとしても,債権者から請求された場合には,他の相続人も法定相続分に応じた債務の支払義務があります。

⑵ 連帯債務

 連帯債務とは,債権者が各連帯債務者に対し,全額の支払いを求めることが出来,各連帯債務者は全額の支払いをする義務があるというものです。
 連帯債務の場合,各相続人は当然に法定相続分に従って,分割された額の債務を承継し,その額の範囲内で本来の債務者と共に連帯債務の関係に立ちます。
 つまり,冒頭の相談事例では,1000万円の2分の1ずつ,500万円の範囲で兄と相談者が,それぞれ会社と連帯して債務を負うことになります。兄が債務を全額相続するという合意をしていても,上記で説明したように,相談者は,父の相続をする限り,法的に500万円の債務を免れることはできません。

2 請求権

⑴ 死亡による損害賠償請求権

Aさんの父が横断歩道を横断中,信号無視の車に轢かれて負傷し,病院に運ばれましたが,一か月後に死亡してしまいました。唯一の相続人であるAさんは,運転者に対して父の慰謝料などを請求できるのでしょうか。
 他人の不法行為により被相続人の生命が侵害された場合,加害者に対し請求しうる損害としては,入通院費用,付添監護費用,弁護士費用,死亡による逸失利益,精神的損害についての慰謝料などがあります。
 また,相続人は,死亡による被害者自身の慰謝料請求権を相続するだけでなく,近親者(被害者の父母,配偶者及び子)は固有の慰謝料請求権も認められています。この事例でも,Aさんは父の慰謝料請求権と,Aさん固有の慰謝料請求権の両方に基づき,運転者に対して請求できることになるでしょう。

⑵ 扶養料請求権,財産分与請求権

Bさんの母は,亡くなる1年前に父と離婚しました。母には資産も収入もなかったため,その後は長男であるBさんが,母が亡くなるまで生活の面倒を見てきました。離婚した父や,Bさんの弟は母に何の援助もしていません。Bさんは,弟に対し母の扶養料を請求することができるでしょうか。また,母は財産分与について父と調停中でしたが,Bさんは母がもらうべきだった財産分与の請求を父に行うことができるでしょうか。
 親と子のような直系血族は,互いに扶養義務を負います。この事例では,Bさんと弟は共に母に対する扶養義務を負っていたことになります。しかし,扶養請求権は一身専属的な権利(被相続人でなければ成立しないような権利)なので,母が亡くなった以上,その後の扶養請求権は発生せず,亡くなるまでの扶養請求権も,母が行使の意思表示を行っていなければ相続の対象にはなりません。ただし,当事者間の協議,調停,又は審判の手続等で,具体的な扶養の内容が定まり,具体的金銭請求権となっていた場合には,単なる金銭債権として相続することが可能です。この事例では,扶養請求権が具体的な金銭債権になっていたという事情が見られないため,Bさんが弟に請求することはできないでしょう。
 また,財産分与請求権についても,被相続人が行使の意思表示自体を行っていなければ,相続の対象になりません。しかし財産分与は,協議や調停中の段階で相続が発生した場合でも,相続の対象になると考えられています。この事例では,母は調停中であったため,Bさんは父を相手方とする財産分与の調停申立てを行うか,既に継続している調停の受継申立てをすることができます。

3 まとめ

今回は,債務や請求権がどのように相続されるかというテーマについてご説明してきました。何が遺産分割の対象となるか,何が当然に分割されるかというのは様々で,判断に難しいところがあるため,相続に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
 また,必ずしも債務を相続しなければならない訳ではなく,相続放棄という手段もあります。時折,「生命保険金1000万円,借金500万円」というケースで,相続して生命保険金の中から借金を支払い,手元に500万円が残る方法を採る方がおられます。しかし,生命保険金は遺産には入らないため,この場合では相続放棄をして生命保険金1000万円だけを取得するのが得策です。相続で損をしないため,相続が発生した場合には早めに弁護士に相談し,最善の策を見つけていきましょう。

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