遺産相続

相続放棄っていつでもできるの?

2017.10.27
遺産相続|弁護士ニュース

相続放棄っていつでもできるの?

「親が亡くなり,遺産について調べてみたら借金がたくさんあった!この借金は私が返済しなければならないの?」と不安に思われる方もいらっしゃるでしょう。
相続により承継するのは,被相続人(亡くなった人)の一切の権利義務です。そのため,不動産や預貯金などの価値のある財産だけではなく,借金等の債務も相続することになります。しかし,被相続人が債務超過であったなど,相続をしたくない場合には「相続放棄」をして一切の相続をしないという選択もできます。ただし,相続放棄はいつでもできるという訳ではありません。今回は,相続放棄の期間制限についてご説明します。

1 相続放棄の手続き

 相続放棄の手続きは,「自己のために相続の開始があったことを知った時」から三カ月以内に,被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述の申立てをして行います。この申述が受理されると,初めから相続人とならなかったものとして扱われるので,被相続人の財産を一切相続しません。
 相続放棄ができる三カ月間を,「熟慮期間」といいます。これについては下記で詳しくご説明しますが,もし熟慮期間を過ぎてしまった場合,相続を単純承認したものとみなされ,負債を含め全ての遺産を相続することとなります。

2 熟慮期間

 三カ月の熟慮期間が認められているのは,相続の承認をするか放棄をするか決めるために,相続財産の調査を行う必要があるからです。
 では,どの時点から三カ月間なのでしょうか。「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」とは,原則として相続開始の原因たる事実(被相続人の死亡)及びこれにより自己が相続人となった事実を知った時をいうとされています。
 配偶者や両親が亡くなった場合,通常はその日のうちに死亡の事実を知り,自分が相続人であると認識すると思います。その場合,死亡した翌日から三カ月以内に申立てをすることとなります。
 それでは,以下の場合はどうでしょうか。
Aさんは大学進学し親元を離れてから,父とは疎遠の生活をしてきました。最近,父の債権者という人から通知が届き,父が半年前に死亡していたこと,父に100万円の借金があることを知りました。死亡から半年が過ぎていますが,相続放棄はできるのでしょうか。
 この場合,Aさんが父の死亡を知ったのは父の債権者から通知が届いたときですから,この翌日から三カ月以内に相続放棄の申述をすることができます。

Bさんの兄が亡くなり,兄の相続は妻子がするものと思っていたBさんは何の手続きもしていませんでした。しかし兄が死亡した一年後,兄の債権者から,妻子は相続を放棄しており,父母も既に死亡しているため,Bさんが兄の相続人になっているとして借金の支払いを求める通知が届きました。
 この場合,Bさんは兄の死亡時に死亡の事実を知っています。しかし,Bさんが相続人となったことを知ったのは,債権者からの通知を受け,兄の妻子が相続放棄をしていることを知った時点です。ですから,Bさんは通知を受けた翌日から三カ月以内に相続放棄の申述をすることができます。

Cさんは父と折り合いが悪く,長年連絡を拒絶しており,父が現在どこで何をしているのかも分からない状況でした。そのような中,親戚から,父が亡くなったという連絡を受けましたが,父は生前に生活保護を受けていたこともあり,遺産は何もないと思っていたので特に相続放棄などはしないまま半年が経過しました。しかし,父が第三者の連帯保証人となっており,熟慮期間経過後に多額の保証債務の支払いを求められました。
 この場合,Cさんは父が死亡したことも自分が相続人となったことも知っていました。このようなケースについて示した判例があります。
相続放棄の熟慮期間は,原則として相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知った時から起算すべきものであるが,相続人が右各事実を知った場合であっても,右各事実を知ったときから3箇月以内に相続放棄をしないのが,相続財産が全く存在しないと信じたためであり,かつ,被相続人の生活歴,被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって,相続人において右のように信ずるについて相当な理由がある場合には,熟慮期間は,相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきである(最判昭和59年4月27日)。
この事例では,Cさんは父と長年疎遠となっており,父が生活保護を受け,父に遺産が何もないと信じたことに相当な理由があると言えます。したがって,Cさんが支払いを求められた翌日から熟慮期間が起算されるので,その時点から三カ月以内に相続放棄をすることができます。

3 熟慮期間の伸長

 被相続人の財産関係が複雑で,三カ月では相続を承認するかどうか決められないということがあります。この場合,三カ月を経過する前に熟慮期間の伸長を家庭裁判所に請求すれば,期間を伸長することができます。
 被相続人が会社を経営していて財産や負債が多数ある場合や,不動産や預貯金が海外に分散しているなど,遺産調査に時間がかかると思われるときは,早めに伸長の申立てを行いましょう。

4 まとめ

 今回は,相続放棄の熟慮期間についてご説明してきました。「父には何の遺産もなかったから」と,相続に関して何の手続きもせずにいたら,熟慮期間経過後に債権者から通知が届いたというケースは珍しくありません。このようなトラブルを避けるため,相続放棄の手続きは必ずしておきましょう。勿論ご自身で行うことも可能ですが,必要書類や記載方法に間違いがあり,何度も補正をしなければならないおそれがあります。また,裁判所によっては,弁護士ではなく本人による申立ての場合は,裁判所に呼び出され,放棄の理由等について裁判官との面談が実施される場合もありますので,そのようなリスクや手間を減らし,スムーズに手続を進められたい場合は,弁護士に依頼すると安心です。
また,被相続人の債務に関して通知が届いた場合,すぐに弁護士に相談する等の対処が必要です。くれぐれも通知を放置してしまわないように気を付けてください。また,別の記事で詳しくご説明しますが,債務の一部を返済してしまうと,法定単純承認に該当し,相続放棄ができなくなる可能性もあります。

そのため,相続放棄の手続きについては,3か月の熟慮期間内であっても,法的知識が不十分であれば相続放棄が出来なくなってしまう恐れがありますので,相続の事実を知ったらまずは弁護士にご相談ください。
また,被相続人の死亡から三カ月以上経過して相続放棄を行おうとする際,なぜ熟慮期間を経過してしまったのかという事情について詳しく説明する必要があります。もし申立てが受理されなければ,被相続人の債務を負ってしまうことになるので,書面の作成は相続放棄の経験豊富な弁護士に任せることを強くお勧めします。

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