遺産相続

父が亡くなったとき,預貯金は勝手に下ろしてもいい?

2017.10.02
遺産相続|弁護士ニュース

父が亡くなったとき,預貯金は勝手に下ろしてもいい?

<相談内容>
父が死亡し,相続人は私と弟です。父の遺産は不動産(400万円)と預金の600万円で,遺言はありません。弟が「預貯金は遺産分割の対象にならないから,俺が預金を下ろして半分の300万円をもらうよ。」と言っています。しかし,弟は父の生前に2000万円の贈与を受けているので,預金は私がすべて取得したいです。それでも,弟に勝手に預金を下ろされ,300万円を取得されてしまうのでしょうか。

 今回は,何が遺産分割の対象となる財産かというテーマについてご説明していきます。

1 遺産の範囲

⑴ 現金

Aさんの夫が亡くなり,相続人はAさんと娘です。夫は押入れに現金1000万円を保管していました。Aさんは娘との遺産分割協議を終えるまで,とりあえず現金を預かることにしましたが,娘が「お父さんの現金のうち,500万円は私がもらう権利がある。今すぐ渡してほしい。」と言っています。現金は遺産分割の対象にならないのでしょうか。
現金は,被相続人の死亡により他の動産や不動産とともに相続人の共有財産となります。相続人は法定相続分に応じて持分権を取得しますが,相続分に応じて分割された額を承継するわけではありません。そのため,遺産分割協議が成立していない以上,現金について引渡しを求めることはできません。
この事例でも,娘は相続財産を保管しているAさんに対し,500万円を引き渡すよう求めることはできません。

⑵ 預貯金

 一般的に,金銭債権は法律上当然に分割され,各相続人が相続分に応じて権利を承継します。つまり,父が誰かに1000万円を貸していたというケースであれば,子2人はそれぞれ500万円の債権を取得することになります(ただし,相続人間で合意すれば,遺産分割の対象とすることも可能です。)。以前は,預貯金も他の金銭債権同様,相続開始と同時に相続分に応じて分割されると考えられていました。
 しかし現在は,預貯金債権は遺産分割の対象となると判断されています(最高裁平成28年12月19日)。そのため,冒頭の相談事例でも,弟が当然に300万円を取得するということはなく,遺産分割協議を行うことになります。また預金の払戻しについても,遺産分割協議書やすべての相続人の印鑑証明書が必要とされています。詳しくは,それぞれの銀行にお問い合わせ頂くと間違いないでしょう。

⑶ 遺産から生じた利益

Bさんの父が亡くなり,相続人は母とBさんです。父は生前,アパートを建て,その収入で生計を立てていました。父の遺産は自宅不動産とアパートですが,半年間にわたる遺産分割協議を経て,母が自宅を取得し,Bさんがアパートを取得することになりそうです。父の死後に生じた半年分のアパート家賃収入は,Bさんが全額取得して良いのでしょうか。
 相続開始から遺産分割が完了するまでは,遺産は相続人の共有とされます。この期間に遺産から生じた賃料債権は,遺産とは別個の財産として,各相続人が相続分に応じて確定的に取得するものとされています。したがって,この事例で,アパートをBさんが取得することになったとしても,遺産分割までの賃料は母とBさんで2分の1ずつ取得することになります。つまり,母とBさんそれぞれが,アパートの借主に対して2分の1の賃料を請求する権利を持ちます。

 しかし通常は,遺産分割が完了するまでの間,特定の相続人が賃料を受領していることがほとんどでしょう。この場合,相続人全員の同意を得て賃料を遺産分割の対象とするか,管理している相続人が賃料を渡さないときには,相続分に応じた金額の支払を請求して民事訴訟を提起するという方法があります。

⑷ 生命保険金

Cさんの母が亡くなり,相続人はCさんと妹です。母は,母を被保険者,Cさんを受取人とする3000万円の生命保険に加入していました。他の相続財産は不動産(3000万円)があります。妹はCさんが受取人になっている生命保険金も分けるべきだと主張していますが,どうでしょうか。

 生命保険金の受取人として特定の者が指定されていた場合,保険金はその者の固有財産となるため,遺産分割の対象にはなりません。この事例では,全額Cさんが受け取ることになります。なお,個々の事情によりますが,Cさんが受け取った生命保険金が特別受益と判断された場合には不動産の遺産分割において影響する(Cさんの取得分が減る)可能性もあります。
 もし,生命保険金の受取人として特定の人が指定されておらず,「相続人」となっていた場合には,相続人となる者の固有財産になります。そして相続分の割合により生命保険金を受け取ることになるため,Cさんと妹が2分の1ずつ,それぞれ1500万円を受け取ることとなります。

⑸ 祭祀に関する財産

Dさんの父が亡くなり,相続人はDさんと弟です。Dさんは長男で,生前父からお墓を守っていくようにと言われていました。そのためDさんが喪主となり,墓石を受け継ごうと思っていましたが,弟が「墓石も財産だから半分に分けるべきじゃないのか。お父さんの遺骨や香典も俺に分けてほしい。」と言ってきました。お墓等も遺産分割協議の対象となるのでしょうか。
 系譜(家系図),位牌や仏壇などの祭具,墓地や墓石などの墳墓を祭祀財産といいます。祭祀財産は,一般的な相続の対象にはならず,「慣習に従って祖先の祭祀を承継すべき者」が承継すると定められています。被相続人による指定(生前行為でも遺言でも良く,口頭,書面,明示,黙示の手段を問いません。)があるときはその者が,慣習が明らかでないときは家庭裁判所が承継者を決定します。この事例では,Dさんが祭祀承継者として指定されているため,墓石はDさんが承継することになります。

 また,遺骨や香典は祭祀財産には当たりません。しかし遺骨は祭祀承継者が管理すべきと考えられるので,他の者に対して引渡しを拒むことができます(ただし,遺骨を一部分骨して,他の相続人に分け与えるということは比較的見られます。可能であれば分骨に応じると,相続人間の対立が避けられるでしょう。)。香典や弔慰金は,慣習上,喪主や遺族への贈与として交付されるものなので,これも相続財産には当たりません。香典は喪主が葬儀費用として使用した以上は問題とならず,葬儀費用を引いても余りが出た場合には,今後の祭祀主催の必要に充てることになり,相続人間で当然に分配されるものではありません。

2 まとめ

 今回は,遺産の範囲についてご説明しました。
ある財産が遺産に含まれるかどうかという判断は,ご自身ではなかなか難しいでしょう。遺産分割協議書を作る際,遺産に漏れがあると再度協議書を作らなくてはなりません。ですから,遺産分割自体に争いはなくても,一度弁護士に相談してから漏れのない協議書を作成することをお勧めします。

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