遺産相続

父が不倫相手に遺言を残していた!無効になる?

2017.09.26
遺産相続|弁護士ニュース

父が不倫相手に遺言を残していた!無効になる?

<相談内容>
私の父は,母と10年ほど前から別居し(法律上は離婚していません。),他の女性と夫婦同様に暮らしていました。その父が先日亡くなり,亡くなる2年前に書かれた遺言書が発見されました。その遺言書によると,私と母が現在住んでいる家・土地は母と私に残すが,他の現金等の財産は一緒に住んでいる女性に渡す,というものでした。父の主な遺産は私たちが住んでいる不動産なので,女性の受け取る財産は3分の1にもなりません。しかし,私も母も,父には長年苦労させられてきたのに,父の不倫相手の女性に財産が渡るなんて納得いきません。この父の遺贈を無効にして,私と母で全ての遺産を分けたいと考えていますが,可能でしょうか。

 この相談の場合,相談者と母親の遺留分は侵害されていないため,遺留分減殺請求をすることはできません。しかし,受遺者である女性は,遺言者のいわゆる不倫相手です。そこで今回は,遺贈が公序良俗違反として無効になる事情について説明していきます。

1 公序良俗違反

 民法90条に,公序良俗違反という規定があります。公序良俗(公の秩序又は善良の風俗)に違反する行為を法律上有効とすることは,社会生活の平穏を害することになりかねず,このような行為を放置することはできないとして無効になると規定されています。人が自由に自己の財産を処分できるとしても,その処分行為が公序良俗に反する場合には,その効力は否定されます。これは自己が死んだ後の財産処分行為である遺贈でも同じであり,内容によっては遺贈が公序良俗違反として無効になることもあり得ます。

2 不倫関係にある女性への遺贈

 冒頭の相談では,女性は遺言者と夫婦同様の暮らしをしていたとのことですが,法律上の配偶者がいる以上,この女性と遺言者が実質的な内縁関係にあったとしても,法律上の夫婦関係と並立していることから,この不倫関係にある女性との関係はいわゆる重婚的内縁関係といわれます。民法は法律上の夫婦に対し,同居・扶助の義務を定める(民法752条)ほか,夫婦間においては,互いに貞操を守る義務が判例上明らかになっています。また,法律上の重婚も禁止されています。したがって,遺言者と一緒に暮らしていた女性との関係が,法律上許容されるものでないことは明らかです。
 しかし,遺言者の不倫関係にある女性への遺贈が直ちに公序良俗違反になるわけではありません。以下では,判例を紹介します。

【東京地判昭和58年7月20日】

 妻が,遺言者が死亡するまで愛人の存在を全く知らず,普通の夫婦として正常な関係を維持し,他方不倫の相手方とは約11年間にわたって性的関係を続けていた事案。遺言をした時期が,遺言者は不倫関係の継続を強く望んでいたが,相手方はむしろそのことに躊躇を感じていた時期に符合すること,当時50歳の遺言者が16歳年下の相手方との関係を継続するためには,財産的利益の供与等により相手方の歓心を買う必要があったこと,本件遺言後両者の関係は親密度を増したことなどの諸事情を考えあわせれば,遺言者は,相手方との情交関係の維持,継続をはかるために本件遺贈をしたと認められる。そして本件遺贈は,妻が居住する建物・敷地含む全財産を対象とするもので,長年連れ添い遺言者の財産形成にも相当寄与し,経済的に全面に夫に依存する妻の立場を全く無視するものであるし,生活の基盤も脅かすものである。と,社会通念上著しく相当性を欠くとして遺贈を公序良俗に反し無効とした。

【最判昭和61年11月20日】

 遺言者が死亡する10年ほど前から妻と別居し,その後不倫関係になった相手方と死亡するまで約7年間にわたって半同棲をし,同棲後すぐ妻にその関係が公然化した事案。遺言の作成前後において両者の親密度が特段増減した事情はなく,妻,子,相手方に3分の1ずつを遺贈するもので,当時の民法では妻の法定相続分が3分の1であったこと,子が既に嫁いで経済的にも自立していることなどの事実関係のもとでは,本件遺言は不倫関係の維持継続を目的とするものではなく,もっぱら生計を遺言者に頼っていた相手方の生活を保全するためになされており,遺言内容が相続人らの生活の基盤を脅かすものではないとして公序良俗に違反しないとした。

 以上のように判例は,
① 妻との婚姻の実態がある程度失った後の遺言か否か
② 内縁関係がある程度継続した後の遺言か否か
を踏まえつつ,
③ 遺贈が不倫な関係の維持継続を目的としているか否か
④ 遺贈の内容が相続人らの生活基盤を脅かすものであるか否かを当該具体的事案の事実関係の中から総合的に考慮して,公序良俗に違反するかを判断しています。

 冒頭の相談では,遺言は妻と別居後8年が経過した後に作成されており,①②の要素からは遺言の有効性が認められる可能性があります。ただ,遺言者と女性との関係が,遺言によって不倫の維持継続が図られたという事情があったり,遺言の対象である財産が相手の女性にわたることによって相談者と母親の生活基盤が脅かされ,生活できなくなるなどの特別な事情があれば,公序良俗違反として無効になる可能性もあります。

3 まとめ

 今回は,遺贈が公序良俗違反となる場合についてご説明しました。法律上許容される関係ではない不倫相手に遺産がわたるというのは納得できないという方も多いと思います。しかしご説明したように,事案によっては有効となる可能性も十分にあります。そして,遺贈が有効か否かは,亡くなった方と不倫相手との関係性や,遺贈の内容,残された家族に対する影響や関係性等の諸事情を総合考慮して,公序良俗に反するか否かという法的判断をすることになるため,法律の専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。今回のケースは相続関係だけでなく,男女問題も絡んできますので,家事事件を広く扱っている弁護士事務所に依頼することをお勧めします。

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