後見

任意後見制度ってなぁに?

2017.08.26
後見制度

【Aさんの相談】

最近,物忘れが多くなってきました。今はまだ大丈夫ですが,将来の生活や財産管理が不安です。認知症になった場合に,成年後見制度等の法定後見制度が利用できるのは知っていますが,全く知らない第三者に自分の財産を管理されるのは抵抗があります。また,法定後見制度は,認知症がある程度進んだ状態でなければ利用できないと聞いています。そこで,今の時点から何か将来の生活に備えた対策をとることはできないでしょうか。

Aさんのように,将来自分がボケてしまった後の生活や財産管理について不安を抱かれている方は多いと思います。そこで,今回は,未だそこまで認知症が進んでいない現時点において,将来の生活や財産管理について対策をとれる任意後見制度についてお話しをしていきたいと思います。

1 任意後見制度とは

任意後見制度とは,将来,判断能力が低下して重要な判断が下せなくなることを見越して,自身が選んだ第三者(以下,「後見受任者」といいます。)との間で,自己の生活や療養看護,財産管理に関する事務等を委託する任意後見契約を締結しておき,実際に判断能力が低下した段階で,後見受任者が後見事務を開始する制度のことを言います。この制度は,本人が元気なうちに,将来委託する後見事務の内容と,事務を委託する相手を自分で自由に(任意に)決定できることから,任意後見制度と呼ばれています。

2 任意後見制度を利用した場合の手続の流れ

①契約締結

まず,後見受任者との間で,任意後見契約を締結し,委託する事務の内容や代理権の付与の範囲,事務の遂行に関する費用等について取り決めを行います。なお,任意後見契約は必ず公正証書で行わなければならず,契約内容は登記されます。

②後見監督人選任申立て

次に,本人の判断能力が低下した時点で,家庭裁判所に対し,後見監督人選任の申立てを行います。後見監督人とは,後見受任者が後見業務を適正に行っているかどうかを監督する立場の者で,後見監督人の選任がなされて初めて任意後見契約の効力が生じます。ですので,任意後見制度を利用する場合には,必ず後見監督人選任の申立てが必要になります。なお,この申立てを行うことができるのは,本人,配偶者,4親等内の親族又は任意後見受任者に限られており,本人以外の者が申立てをする場合には,本人の同意が必要となります。(但し,本人が意思表示できない状態の場合,本人の同意は不要です。)

③後見監督人の選任

後見監督人は,本人の心身の状態や生活状況,財産状況,後見監督人となる者の職業や経歴,本人との利害関係,本人の意見等の一切の事情を考慮して,家庭裁判所が選任します。本人の意見も考慮要素の一つではありますが,家庭裁判所は本人の意見に拘束されるわけではなく,事案に応じて監督人として適正な人物を選任します。
なお,後見監督人には資格制限があり,後見受任者又はその配偶者,直系血族,兄弟姉妹は後見監督人にはなれません。また,監督人としての適格性確保の見地から,未成年者や破産者,本人との争訟関係にある者や行方不明者等も欠格事由にあたります。

④後見監督人の登記

 任意後見監督人選任の審判が確定すると,任意後見監督人選任についての登記が行われます。これにより,任意後見人としての権限を第三者にも証明することができ,後見事務を開始することができます。

3 任意後見契約で委託できる事務の範囲

 任意後見契約で委託できる事務の内容(以下,「法定委任事項」といいます。)は,「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部」です(任意後見法2条1号)。
 ここでいう事務とは,法律行為(例えば,契約の締結,解除など,人の意思によって法的効果が変動する行為)に限られ,事実行為(例えば,入浴介助や葬儀の取り決め等の事実上の行為)は含まれません。そのため,上記でいう「療養看護…に関する事務」とは,福祉施設への入居契約や介護サービス利用契約の締結等の行為であり,入浴介助等の介護行為を指すものではありません(この点は法定後見制度も同様です。)
 また,法定委任事項は,上記の通り,「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における…事務」であるため,認知症等により判断能力が低下する前の時点での事務については,含まれていません。
 もっとも,上記の事実行為や判断能力低下前の事務に関しては,任意後見契約の内容にすることはできませんが,任意後見契約締結と同時に,別途で委任契約や事実行為についての委託契約を締結し,判断能力低下前の見守り事務や,介護行為等の委託事務について契約を締結することは可能です。また,実務上も,判断能力低下前は,本人の健康状態などを把握するための見守り事務を別途委任し,判断能力低下後に任意後見契約に移行するという契約形態も多く,このような契約については「移行型」の任意後見契約とも呼ばれています。

4 法定後見制度との違い

認知症等になった場合の財産管理や療養看護について,第三者に行ってもらう制度として,成年後見制度に代表される法定後見制度があるのは皆さんご存知かと思います。(なお,法定後見制度についての詳細は別記事に記載していますので,宜しければそちらもご覧下さい。)しかし,法定後見制度は,後見事務を行ってくれる第三者を裁判所が選び,本人の意思で決めることができないため,この点が任意後見制度と大きく異なります。
また,任意後見制度では,判断能力があるうちに,委託する事務の内容を自由に設計でき,いわばオーダーメイドの契約をすることができるため,本人の意向に沿う仕組みづくりが可能です。なお,法定後見制度では,後見人等の権限に,本人の行った契約についての取消権が含まれますが,任意後見制度では,任意後見人の権限に取消権は含まれないため,この点も法定後見制度との違いになります。

5 まとめ

 以上の通り,任意後見契約は,判断能力がしっかりしている時期に,将来の財産管理や療養看護について本人の意向に沿った契約を締結することができるため,今のうちから将来の準備を進めておきたいという方にはお勧めです。ただ,任意後見契約の法定委任事項には,制限があるため,ご自身が将来思い描いているライフプランが任意後見契約によって実現ができるかについては,専門家による検討が必要ですので,任意後見契約に詳しい専門家弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

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