借金問題

破産手続で否認される偏頗弁済ってなぁに?

2018.01.25
借金問題|弁護士ニュース

【Aさんの相談】

私は現在破産を考えていますが,債権者の中にとてもお世話になった人がおり,その方から借りている100万円については何としてでも返済したいと思っています。しかし,弁護士さんに相談したところ,破産する場合は,一部の債権者のみに債務を返済することは「偏頗弁済」にあたり,免責不許可事由にあたるからその人のみに返済することはできないと言われました。しかし,その債権者の方は,私の祖父の代から,代々お世話になった方であり,その方へ不義理をするくらいであれば,破産はできないと考えています。この場合,何か方法はありませんか。

1 偏頗弁済ってなぁに?

偏頗弁済とは,偏った弁済,すなわち,一部の債権者に対してのみ,債務を弁済することを言います。破産手続は,破産手続開始決定時に残された財産を換価し,全ての債権者に債権額に応じて平等に配当する手続ですので,偏頗弁済が行われると,抜け駆け的な弁済になり,他の債権者との公平性を害するため,破産法は偏頗弁済に関する規制を設け,偏頗弁済を行った場合は,事後的に否認(=取り消す)ことができるとし,併せて,偏頗弁済を免責不許可事由として定めています。
なお,偏頗弁済が禁止されるのは,債権者間の公平性を害するという趣旨ですので,破産法は,返済行為に限らず,一部の債権者にのみ債務を負担したり,担保を提供する行為等も同様に規制しています。(以下,一部の債権者への返済,債務負担,担保提供,債務消滅行為等を併せて「偏頗行為」といいます。)

2 否認の対象になる偏頗行為とは?

 偏頗行為が破産法上規制されているのは上述の通りですが,否認や免責不許可の対象となる偏頗行為の具体的要件について,以下見ていくことにします。対象となる行為類型は,大きく分けて,(1)(2)の2種類あります。

【要件】

(1)支払不能または破産手続申立て後にされた偏頗行為
*「支払不能」とは,債務者の経済状況悪化により,弁済期にある債務を,一般的かつ継続的に弁済することができない状態を言い,破産手続開始の要件となっています。
破産法が偏頗行為を規制する趣旨は,破産状態に至った後の抜けがけ的弁済による債権者間の不平等を防止する点にあるので,破産法上規制される偏頗行為は,支払不能等の債務状況悪化後のものとされています。
* 対象行為:担保供与や債務消滅行為が「既存の債務」に対してなされたものであること
⇒ 「既存の債務」に対してなされたという意味は,裏を返せば,同時交換的に行った担保供与は規制の対象にならないということです。例えば,既存の借金が返せなくなり,債権者から担保の差入れを要求されたため,後日自宅に抵当権を設定したという場合は,「既存の債務」に対してなされた担保供与として否認の対象となります。他方で,新規の融資をしてもらうために担保の設定をする行為は,担保設定と同時交換的に融資を受ける形になるため,「既存の債務」に対してなされたものに該当せず,否認の対象にはなりません。
* 債権者側の主観:偏頗行為を受けた債権者側が,債務者の支払不能状態について知っていたこと
⇒ 偏頗行為が否認されると,既に受けた弁済や担保供与の効力は事後的に否定されることになるため,債権者の利益を害することになり,その後の法律関係も不安定になります。そのため,債権者保護の見地から,否認対象となる行為については,債権者側も,偏頗行為を受けた時点で,債務者の破産状態を知っていたことが要件とされています。
 (2)支払不能前30日以内になされた非義務行為
  ⇒ 非義務行為とは,義務なく行う行為,すなわち,義務がないにもかかわらず,担保を設定したり,本来の支払期日を前倒しして返済したり(期限前弁済),本来の返済方法とは異なる方法で返済したり(代物弁済)するとことを言います。
    (1)に記載した偏頗行為は,義務に基づく行為である点で(2)と異なります。非義務行為の場合は,支払不能直前に行なわれたものも否認の対象となります。

3 破産手続終了後に借金を返済するのはOK?

 以上の通り,破産手続をする場合,偏頗行為は禁止されます。それでは,お世話になった方からの借金を返済する手段はないのでしょうか。
 破産により免責許可決定が出ると,債務を返済する義務は免れますが,破産手続終了後に,新たに得た収入から任意に債務相当額を弁済することは認められています。しかし,手続終了後の任意弁済が自由となると,債権者が破産者に対して,手続終了後に「任意弁済」という名目の下,債務返済を強要し,結局は弱い立場の債務者は断れずに弁済する羽目になり,経済的更生を図れなくなってしまうことが目に見えています。

そのため,実務上は,手続終了後の任意弁済に関しては,債務者が自由意思に基づいて任意に弁済したかどうかについて極めて厳格に判断され,少しでも強制の要素がある場合は無効となります。
 よって,本件のAさんも,お世話になった債権者に対して,破産手続終了後に,自由意思に基づいて任意弁済をすることは禁じられていないので,そのような形でAさんの要望は叶えることができます。

4 まとめ

 以上の通り,破産法では,偏頗行為が規制されており,偏頗行為を行うと事後的に否認されたり,そもそも免責許可を受けられなくなってしまう可能性がありますので,破産手続を検討されている場合は,どのような行為が偏頗行為にあたるのか,きちんと認識し,不安な方は弁護士に相談しましょう。
 なお,破産する上で偏頗行為は規制されますが,破産手続終了後に自身の自由財産から返済することは可能ですので,お世話になった人への債務が消えてしまうことを気にかけて破産を躊躇されている方は,お世話になった人にその旨説明をした上で,破産手続に移行しましょう。

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