刑事事件

捜査への協力の要否・強制捜査とはどんな捜査か

2019.07.30

今回は、以前別の記事でご紹介した、警察官の行き過ぎた行為の報告先に関連して、捜査機関の種類や強制捜査がいかなるものであるか、また関連する刑事訴訟法の原則をご紹介します。

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1.捜査機関

犯罪について捜査を行う権限と責務を有する捜査機関は、警察と検察、正確には、司法警察職員と検察官、検察事務官です。実際には、司法警察職員は一般司法警察職員と特別司法警察職員とに分けられており、この特別司法警察職員の中に、労働基準監督官など、専門の分野に限って捜査を行うことのできる者が規定されています。

刑事訴訟法(以下「刑訴法」といいます。)では司法警察職員は「犯罪があると思料するとき」、検察官は「必要があるとき」に捜査をすると定められています(刑訴法189条2項、191条1項)。

この規定からも分かりますが、犯罪捜査を行うのは第一次的には司法警察職員です。実際にも司法警察職員によって捜査が開始される事件が多いため、司法警察職員を「第一次捜査機関」、検察官を「第二次捜査機関」と呼ぶことがあります。

2.捜査の原則

(1)捜査関係者の心構え

捜査というのは、私人の私生活に踏み込み、権利侵害のおそれがあるものですので、必要最小限度の合理的なものに留めるべきとされています。
一方で、平和で安全な社会を守るために国民が捜査機関に付託した重要な作用ですから捜査についても尊重しなければなりません(刑訴法196条)。

また、捜査は、関係者の名誉、そして捜査の目的達成のためにも、秘密を守って捜査を行わなければなりません。これは、「捜査密行の原則」などといわれることもありまます(犯罪捜査規範第9条参照)

(2)捜査に必要な取調べ

刑訴法第197条1項本文では、「捜査については、その目的を達するために必要な取調をすることができる。」と定められています。
同条中の「取調」というのは、単に人から話をききとるといった取調べだけでなく、犯人の発見、証拠収集のためのすべての処分、すなわち捜査活動一般を指します。

既に述べたとおり、捜査はその性質上、任意であっても市民の私生活部分に公権力が介入するものです。
したがって、捜査機関は、私生活への介入を必要最小限度にとどめなければならず、これを裏返せば、市民の側は、捜査機関のする適法な取調べに対しては協力、少なくともこれを受忍しなければならない、ということになります。

このように、捜査に必要な取調べは、刑訴法が特に捜査機関に認めたものあり、捜査機関は、刑訴法に従って、適法な捜査を行わなければならないことはいうまでもありません。

3.強制処分に関する原則

(1)強制処分法定主義

以上の通り、捜査は、人の権利に対する侵害を必要最小限度に止めて謙抑的に行う必要があることが分かりますが、そのために捜査機関が有すべき必要な権限は刑訴法によって定められています。

そして、刑訴法197条1項但書は「強制の処分は、この法律に特別の定めがある場合でなければ、これをすることができない。」旨を定めています。これが「強制処分法定主義」と呼ばれるものです。

ここで、憲法では、逮捕・捜索・押収などの強制処分を行うには、原則として司法官憲、すなわち裁判官が発する令状が必要であると定められています(令状主義)。
刑訴法はこれを受けて、逮捕・捜索等の強制処分の要件を定めているわけですが、強制処分について単に「特別の法律の定め」を必要とするのではなく、刑訴法に定めがなければできないと規定する点できわめて厳格なものといえます。

(2)任意捜査の原則

強制処分に関する刑訴法197条1項但書と対比し、同項本文の規定(「捜査については、その目的を達するために必要な取調べをすることが出来る。」)は「任意捜査の原則」を指すものだというのが一般的な理解です(警察官に対する捜査規則である犯罪捜査規範99条は「捜査は、なるべく任意捜査の方法によって行わなければならない。」として、この原則を明示しています。)。

しかし、この「任意捜査の原則」というのは、常に任意捜査が強制捜査に優先する、すなわち、任意捜査で行える場合には、強制捜査を行ってはならないということを意味している訳ではありません。

例えば、逮捕・勾留という人身の拘束については、逮捕・勾留しなくても捜査の目的を達することができる場合に逮捕・勾留を認めてはならないのは当然でしょう。

しかしながら、任意捜査ができる場合には強制捜査を行うことが許されないとすると、強制捜査を行う前に相手に逐一捜査を承諾するかどうか確かめなければいけないことになり、これは、不合理です。

また、任意捜査が可能な場合であっても強制捜査によるべき場合もあります。犯罪捜査規範は、住居等については、たとえ住居主又は看守者の任意の承諾があっても任意捜査として捜査を行ってはならない、つまり住居等については、必ず強制捜査を行わなければならないと定めています(犯罪捜査規範108条)。
一見すると任意捜査の原則に反しているように思えるのですが、この規定は、当該捜索による住居主等に対する権利侵害の程度が決して小さくないことから、警察官が相手方にむりやり承諾させて捜査をすることがないように任意捜査を許さないことにしたものです。

4.強制捜査について

それでは、強制の処分(強制捜査)というのはどのようなものを指すのでしょうか。

【最高裁決定昭和51年3月16日】では、強制捜査を「個人の意思を抑圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する」と定義しています。

そして、任意捜査においては有形力の行使は一切許されないとする考え方がありますが、判例その他の裁判例は、任意捜査においても一定の有形力の行使を認めています。上記最高裁決定では、任意捜査でも一切の有形力の行使が許されないわけではないとして、その限界を「必要性、緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される」か否かとしています。

【最高裁決定昭和51年3月16日】
「捜査において強制手段を用いることは、法律の根拠規定がある場合に限り許容されるものである。しかしながら、ここにいう強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであつて、右の程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない。ただ、強制手段にあたらない有形力の行使であつても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである。」

5.まとめ

このように、刑事訴訟法では捜査の必要性と基本的人権の尊重が図られています。予め捜査機関による捜査を許容すべき場合を事前に知っておくことで、本来協力する必要性のない捜査については拒否することもできます。

また、もし任意の協力の名目のもと、具体的状況において個人の意思を抑圧するような捜査が行われてしまった場合は、当該捜査は強制捜査にあたり、令状がない限り違法ですから、速やかに専門家に相談のうえ、適切に対処してもらう必要があります。