企業関連

未払い残業代の企業リスク

2019.07.10

近年では、残業を前提とする働き方が変わり、可能な限り不要な残業を削減し定時で業務を終了させる働き方が一般的になっています。

一方で、未払残業代、長時間労働に付随する様々な問題も発生しています。今回は会社にとって未払残業代がどの様なリスクを及ぼすのか説明します。

1.法定時間外労働と割増賃金

労働基準法第32条では、法定労働時間を原則1日8時間、1週間40日と定めています。この法定労働時間を超えた労働を、「法定時間外労働」と言います。法定時間外労働については、労働基準法第37条により、使用者に割増賃金の支払義務が生じます(当然ながら、労働者に法定外時間外労働をさせる場合には、36協定の締結が必要となります。)。

これに対して、所定労働時間(企業で定められている始業時間から終業時間までの時間から、休憩時間を差し引いた時間)を超えた労働ではあるが、法定労働時間を超えない場合(法定内時間外労働と言います。)は、労働基準法上、使用者に割増賃金の支払義務は生じません。
この場合、労働基準法上、使用者は労働者に対して通常の賃金を支払えばよく、割増賃金を支払うか否かは労働契約、又は就業規則の規定によります。

では、実際に割増賃金を支払う場合、どのように計算すればいいのでしょうか。割増賃金は①時間外労働、②深夜労働、③休日労働に対して支払われますが、各割増率は次の通りとなります。

① 時間外労働 
法定労働時間を超える労働に対して通常の賃金の25%以上
(大企業の場合、1か月の時間外労働時間が60時間を超える場合は、通常の賃金の50%以上)

② 深夜労働  
午後10時から午前5時までの労働に対して通常の賃金の25%以上

③ 休日労働
法定休日の労働に対して通常の賃金の35%以上

なお、上記が重複する場合には割増率を合算して支払うことになります。例えば、時間外労働と深夜労働が重複した場合の割増率は50%となり、休日労働と深夜労働が重複した場合の割増率は60%となります。
また、法定外休日(所定休日とも言います。)での労働に対しては、その日の勤務により1週間の労働時間が法定労働時間を上回る場合に、時間外労働分につき割増賃金(通常の賃金の25%以上)を支払う必要があります。

2.残業が引き起こすリスク

残業によって発生する主なリスクとして、企業にとって支払賃金が増加するコスト面でのリスク、労働者にとっては健康面でのリスクが考えられます。

企業にとって割増賃金の支払いは人件費の増大に繋がり、予定以上のコストが発生するため、避けたいものです。特に必要性のある残業であれば仕方がないですが、従業員の中には不必要な残業を重ねる労働者が居ることも事実です。
企業としては、その様な不必要な残業を削減するために、社員の意識改革と同時に、業務フローを構築することにより効率的な労働が実現するような体制作りが必要です。また、労働時間を正確に把握することも重要となるため、勤怠管理システムの導入なども1つの対策となります。
更に、残業の場合の事前申請制を導入する等して不必要な残業を行わせない体制作りも重要になります。

また、長時間労働は労働者の健康面にも影響を及ぼすことがあります。労働者に長時間の時間外労働が続いて過重労働の状態になると、心身ともに悪影響を及ぼすことがあります。
なお、厚生労働省では、労働者の心身に生じた疾患の原因が過重労働であるとして、当該労働者に対する労災を認定する基準として、「発症前の1ヵ月間におおむね100時間又は発症前の2ヵ月~6ヵ月間にわたって1ヵ月あたり80時間を超える時間外労働が認められる場合には業務と発症の関連性が強い」という基準を設けています。
このように、時間外労働の時間数は、労災認定の上で重要な目安になっていることがわかります。

労災が認定された場合、企業は労働者から安全配慮義務違反に対する損害賠償請求され、代表者は会社法429条第1項(役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う)に基づき、役員等の第三者に対する損害賠償責任を問われるリスクが生じます。
ですので、企業としては、従業員が過重労働に陥らないように徹底した労務管理を行いましょう。

3.未払残業代を請求されたら

では、実際に労働者から未払残業代を請求された場合、企業にはどのようなリスクが生じるのでしょうか。労働者から未払残業代を請求された場合、残業時間の認定が大きな争点となることが多々あります。

一般的には、タイムカードや出勤簿、パソコンのログ等の客観的な資料から出勤時間と退勤時間を推定し、残業時間を認定します。仮に、労働者が必要な仕事を終えた後に私的な事を行いながら残っていた場合も、訴訟を起こされた場合、裁判所ではタイムカード等の資料を元に判断を行われることが多いため、企業は本来であれば不必要な未払残業代を支払うことになってしまいます。

未払残業代の請求が裁判所を通して争いになった場合のリスクとして、未払残業代に付加金を加算して支払いを命じられることがあります。付加金の金額についてはケースによって異なりますが、キャッシュに余裕がない中小企業では経営を圧迫する大きなリスクになり得ます。

また、未払残業代請求の消滅時効は2年間と定められていますが、企業側が悪質な残業隠しを画策したり、労働基準監督から是正勧告をうけても全く是正しないなどの悪質なケースでは、企業の不法行為責任が認められる場合があります。
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は3年になるため、3年分の未払残業代とそれに加えた付加金の支払いを命じられる可能性もあります。

4.まとめ

以上の事から、未払残業代を放っていると経営を圧迫するリスクや訴訟に発展するリスクがあることを理解して頂けたと思います。企業は労働者の労働時間を正確に管理し、不要な残業を行わないように、残業を許可制にするなどの対策を取り工夫をしましょう。
労務管理がきちんとできていない企業は未払残業代のリスクが高まるため、確実に労務管理を行う事が重要です。