生前の相続対策

優遇措置を使おう(上級編)

2021.04.22
優遇措置を使おう(上級編)

相続税をわれわれ税理士の視点から考えた場合、税法の優遇措置は数あれど、一般の皆さんからすれば、まず基本的なレベルの優遇措置をおさえられて、次に発展段階のレベルのものを検討するのが自然ではないかと思います。
そこで優遇措置といえども、敢えて入門編・初級編・中級編・上級編に4分類し、皆さんの優遇措置への理解を深めて貰えればと存じます。
まず、今回は第4回目で上級編と題して「1.相続時精算課税制度を使用する」と「2.一般社団法人を設立する」の2つの優遇措置をご紹介します。

1.相続時精算課税制度を使用する

生前贈与を考える時に検討したい制度の一つが「相続時精算課税制度」です。
これは 60歳以上の直系尊属 父母、祖父母から、20歳以上の子、孫などに対して生前 贈与をする場合、 2500万円までの資産には贈与税がかからないといぅ制度です。

非課税枠を超えた分に関しては一律20%の贈与税がかかります。
一度に2500万円分ではなく、何年かに分けて贈与することも可能です。なおこの制度を利用した年以降は、通常の暦年贈与や特例贈与を利用することはできません。
通常の贈与の非課税枠は年に110万円ですから、それと比べると非常にメリットの大きい制度に思えますが、じつはカラクリがあります。

将来的に被相続人が亡くなって相続が発生した時に、その時点で保有していた財産に加えて、相続時精算課税制度を使って渡した財産も、相続財産として合わせて再計算しなければならないのです。
しかも、この制度を 一度選択すると、やめることはできません。
この制度を間違って使うと自分の首を絞めることになります。

たとえば父が生きているうちに相続時精算課税制度を使って、子どもに上場企業の株式2500万円分を贈与したとします。
その時点では非課税です。
20年後に父が亡くなり 1億円分の財産が残りましたが、過去に贈与した株の2500万円分をプラスして、合計 1億2500万円として相続税を計算することになります。
この時、もし企業が倒産して株価が0円になっていたらどうでしょう。
贈与時の価値(株価)で課税額を計算するため、実質的には1億円しか財産を受け取っていないのに、1億2500万円を受け取ったとして相続税を払わなければなりません。
計算が面倒なだけでなく、税金も高くなってしまいました。

逆に贈与した時点よりも株価が上がっていれば、その分だけ節税メリットが生じること になります。
したがって相続時精算課税制度を使う時は、将来的に価値が上がるであろう財産、あるいは所有するだけで収益を生み続ける財産(賃貸不動産など)を贈与してあげることがポイントとなります。

2.一般社団法人を設立する

一般社団法人とは、 2008年施行の法律に基づいて設立された組織形態です。
簡単に 設立できる、公益性は問われない(できる事業に制限はない)、営利を目的としない、などの特徴があります。
営利を目的としないといっても、収益活動を行ってはいけないということではなく、 「設立者や社員に利益の配当を出してはいけない」という意味です。

この一般社団法人を活用した相続税対策があります。
たとえば賃貸不動産の所有や管理といった事業を、株式会社ではなく 一般社団法人で行 います。
この法人が賃貸不動産から得た収益に対しては、法人税が課せられます。

さて、この一般社団法人を設立していた人が亡くなり、相続が発生しました。
法律上、一般社団法人には、株式会社の「株式」にあたるもの(持分)が存在しません。
つまり、 一般社団法人には所有者がいないことになっています。
そのため、配偶者や子どもがこの運営を引き継いだとしても、そもそも所有者ではないので相続税がかかりせん。

これが一般社団法人を利用した相続税対策です。
相続財産が多い人にとっては魅力的な手法に思えます。
しかし、そんなにうまくいくかどうかは疑問です。
なぜなら、税務署に否認される可能性があるからです。
税務署に「なぜ株式会社ではなく一般社団法人なのか」と問われた時に、その理由がきちんとあればいいのですが、明らかに相続税逃れで設立していると見なされれば、アウトと判定されるでしょう。

また、現在の法律では確かに相続税が課税されないことになってはいますが、将来的に どうなるかはわかりません。
相続税をゼロにするために一般社団法人にしたのに、実際に 相続が発生した時には税制が変わっていた。そんなことになる可能性も高いからです。
このような手法もあることだけはお伝えしておきましたが、税理士としてはあまりおす すめはできないというのが結論です。

おわりに

ご紹介した「相続時精算課税制度を使用する」は、現在、結構、普及しているような気がします。
確かに節税だけを考えれば、贈与時より相続時に時価が高騰しているものには有効でしょう。
しかし、われわれ一般市民には、それが何か、そして、必ず値上がりしているものを見分けるのは、少し無理なような気がします。

しかし、それでも、普及している一つの要素は、相続時に争族にならないように親が事前にある程度配分を完了しとくというところに意義があるような気がします。

たとえば、同族会社なら自社株式はすべて後継者の長男へ、そのかわり金融資産は、その他の跡を継がない子供達にへと相続時精算課税制度を使用して相続より前に渡していればどうでしょう。
争族の芽を摘んでおく効果が大きいかもしれません。

最後に、あるお客様で相続時精算課税制度を使い娘たちに金融資産を贈与された方がおっしゃいました。「俺の相続の時に納税資金に困らないように全部使ったらだめだぞ。少しは残しておきなさい」と、まさに名言だと思いました。
この相続時精算課税制度は2500万円の枠を使い切れば、その後は10万円でも贈与をすれば、一律20%の贈与税2万円を申告納付しなければならないという制約があります。
今一度、自分たちにはどの優遇措置が最適であるのか専門家にご相談されることをお勧めします。