生前の相続対策

優遇措置を使おう(初級編)

2021.04.08
優遇措置をフル活用する(初級編)

相続税をわれわれ税理士の視点から考えた場合、税法の優遇措置は数あれど、一般の皆さんからすれば、まず基本的な優遇措置をおさえられて、次に発展段階のものを検討するのが自然ではないかと思います。

そこで優遇措置といえども、敢えて入門編初級編中級編上級編に4分類し、皆さんの優遇措置への理解を深めて貰えればと存じます。
まず、今回は第2回目で初級編と題して「1.配偶者に財産をすべて渡す」と「2.養子縁組で法定相続人を増やす」の2つの優遇措置をご紹介します。

1.「配偶者に財産をすべて渡す」とは

相続税を計算するうえで、被相続人の配偶者はかなり有利な立場に置かれています。
配偶者が財産を相続した場合、1億6千万円までは相続税がかからないという配偶者控除があるからです。
しかもこの制度は、相続財産総額から基礎控除額を差し引き、各相続人が支払うべき相続税額を計算し、そこからさらに1億6万円を差し引けるというもの。

したがって、被相続人がかなりの資産家でない限り、配偶者の相続税は0円となるケースが多いといえます。
この制度を活用すれば、財産の多くを配偶者に残すことができます。
相続人が複数で配偶者と子どもなどいる場合、どの相続人にどれだけの財産を分けるかは、法律で定められています(法定相続分)。
しかし被相続人の遺言書があれば、法定相続分とは関係なく、財産の分け方を指定することができます。

つまり、遺言書を作って指示しておけば、配偶者に全部の財産を渡すことができるのです。
ただし、遺言の内容にかかわらず、法定相続人は自分の遺留分を主張し、財産を受け取る権利があります。
遺言書はハードルが高いというのであれば、相続人全員に「配偶者に全財産を渡す」と口頭で伝えておくだけでも構いません。

なお配偶者控除を適用できる配偶者とは、妻とは限らず、夫の場合も同じです。
夫と妻、どちらが先に亡くなるかはわからないわけですから、お互いに「全財産を渡す」と宣言しあっておけばいいでしよう。

ところで、「配偶者に財産をすべて渡す」ことは一見、大きなメリットがあるようですが、じつはその効果は限定的です。
配偶者が遗産を相続することを「一次相続」、その配偶者が亡くなり、子どもが相続することを「二次相続」といいますが、一次相続で相続税を節税できたとしても、二次相続で多額の相続税がかかってくる可能性が高くなるのです。

したがって、一次相続だけに目を向けるのではなく、二次相続も踏まえて相続税のシミユレ—ションをして、遺産の分け方を考えることが大切です。

2.養子縁組で法定相続人を増やす

非常に簡単でかつ効果の高い節税策が養子縁組です。
相続税の計算で、配偶者の次に優遇されている存在が子どもです。
子どもは法定相続人であり、相続税の基礎控除枠(3000万円+600万円×法定相続人の数)の対象となります。
その他に生命保険の非課税枠「500万円×法定相続人の数」、死亡退職金の非課税枠「500万円×法定相続人の数」などが使えます。

法定相続人以外の人がこうしたメリットを受けるための方法が、養子縁組、普通養子縁組です。
たとえば、孫を祖父の養子にするとしましょう。
すると、祖父の遺産を相続する法定相続人には、配偶者、実子のほか、養子も加わりますただし、孫を養子にした場合、その養子が納税すべき相続税額にはその相続税額の2割が加算されます。
法定相続人の数が増えればそれだけ、基礎控除額や生命保険金の非課税枠などが増えるので、課税対象となる相続財産が少なくなり、相続税額を節約できます。
「養子縁組なんて面倒では?」と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
市区町村の役所に届出書を1枚提出するだけ。
5分もあれば済んでしまいます。

養子縁組した時に、実親との関係はどうなるかというと、これは変わらず実親のままにできます。  
つまり孫は、養親と実親の2組の親を持つことになり、相続においてもこれらの2組に対しての法定相続人となります。

では、たくさん養子縁組すればそれだけ相続税対策になるかというと、そうではありません。
相続税の基礎控除などの対象となるのは、実子がいるケースなら養子1人まで、実子がいないケースでは養子2人までだからです。
「孫を養子にするなんて」と敬遠する方もいらっしゃいますが、その節税効果を実際にシミュレーションしてみると、多くの人は「すぐにやろう」と意見が変わります。
簡単で効果の高い養子縁組を一度検討してみてはいかがでしょうか。

なお、養子縁組には、家の跡継ぎを残すことを目的にした普通養子縁組のほかに、6歳未満の子どもの育ての親となる特別養子縁組もあります。
特別養子縁組には、普通養子縁組とは異なる様々な条件が課されていますが、特別養子は実子として法定相続人の数や相続税の基礎控除などの対象に含められます。

おわりに

ご紹介した「配偶者に財産をすべて渡す」は相続税の「配偶者の税額軽減」をフル活用するやり方です。
課税庁にしてみれば被相続人と基本的に同じ世代に財産が移り、また、国民感情の点からもこの制度が存在すると思えます。
また、もう一つの「養子縁組で法定相続人を増やす」も考え方を割り切れば有効な手段です。
実際、臨終の前日に養子縁組されたお客様もいらっしゃいました。これらの2件も一考する価値はあると思います。