生前の相続対策

家族信託と成年後見制度の違い

2021.04.20
家族信託と成年後見制度の違い

「家族信託」を紹介する際に、「家族信託」は「成年後見制度」と違って柔軟な財産管理が可能である、「家族信託」と「成年後見制度」を上手に使い分けましょう、というような説明がなされていることがよくあります。

「家族信託」と「成年後見制度」とは、後見人や受託者が本人に代わって法律行為を行い、本人の財産を管理するという点では同じ機能を持っている制度ですが、両者はどのように違うのでしょうか?
両制度を使い分けることを検討するうえで、まずは両者の違いを確認してみましょう。

1.「成年後見制度」とは

「成年後見制度」は、成年後見人が、判断能力が万全でなくなったため法律行為(売買契約の締結や預金取引など)を行えない人を代理し、必要な契約等を締結したり財産を管理したりして本人の保護を図るものです。
成年後見人の選び方には、①法定後見②任意後見とがあります。

①法定後見は、認知症などで既に判断能力が万全ではなくなった人が利用する制度で、後見人となる人を家庭裁判所が決定します。なお、選任の際に、後見人の候補者を立てることはできますが、最終的に誰を後見人にするかは、家庭裁判所が決定するため、必ずしも本人や親族が希望する者が選任されるわけではありません。とりわけ、推定相続人(本人が死亡した場合に相続人となる可能性が高い人をいいます。例えば、配偶者や子どもが該当します。)から反対が出ると、親族の候補者は原則として後見人に就任できません。
他方で、②任意後見は、判断能力が万全なうちに、将来に備えて自分の法律行為の代理や財産の管理を託したい相手に後見人になってもらう契約をします。公正証書を作成するという厳格な手続きが必要ですが、自分の将来を託したい相手をほぼ確実に後見人に就任させることができます。

2.行為の制約と報告義務

(1)成年後見制度の場合

成年後見人は、家庭裁判所(後見監督人が就けば後見監督人)に定期的に収支報告をしなければなりません。後見監督人が就任した場合は、3~6か月に1回のペースで報告する必要があるため、専門家でない親族が後見人に就任した場合は大きな負担となります。

また、成年後見人には、被後見人にとってベストな財産・管理をするという制限があるため、被後見人にとってメリットや必要性がないと判断される行為はできません。
例えば、在宅介護をしやすくするためのバリアフリー住宅へのリフォームや建替えは被後見人にメリットや必要性があるといえるので可能です。しかし、被後見人の預金を元手に賃貸アパートを建替えたりすることは、被後見人にメリットや必要性があると合理的に説明するのがなかなか困難なため、できないと判断されることもあります。

たとえば、ダウン症で縮毛を気にしている女の子が、週に1度の楽しみとしてストレートパーマをかけるようなことも不必要で贅沢なこととしてできないこともあったようです。
このように、「成年後見制度」は堅実な財産管理ができる反面、本人が望んでいるであろうことが必ずしも実行できるとは限りません。

(2)家族信託の場合

家族信託は、当事者が自由に契約を締結できるため、税務申告を除けば、裁判所などの公的な機関への報告義務はありません。

また、家族信託契約は、判断能力が万全なときに締結されるため、正常な判断や意思表示が困難になっても、契約当時の委託者の意思・希望に基づいて受託者は信託事務を遂行できます(信託の持つ「意思凍結機能」と呼ばれます。)。

判断能力が万全な内に、賃貸アパートの建て替えを含む財産管理を託しておけば、受託者は委託者から託された資産を使って建て替えが可能です。

3.費用

(1)成年後見制度の場合

「成年後見制度」の場合、①法定後見と②任意後見で費用が異なります。

①法定後見の場合
ア申立時にかかる費用
申立時にかかる費用としては、(i)家庭裁判所に支払う収入印紙代(ii)医師の鑑定が必要な場合は鑑定料(iii)申立てを専門家に依頼する場合は専門家に支払う費用がかかるます。

まず、(i)については、家庭裁判所に申立てを行う際に、印紙代1万円弱が費用としてかかります。なお、家庭裁判所が本人について医師の鑑定を必要と判断した場合には、担当医に支払う鑑定料として、5~10万円程度発生します。

なお、申立てをする際には、裁判所に提出する資料として、被後見人の財産目録や収支の資料、申立てに至る経緯の説明文書等、多数の書類を揃えなければならず、家族の方が全て1人で行うにはかなり労力がかかるため、申立手続を弁護士や司法書士に依頼する方も多いです。専門職への依頼の相場は、10~20万円 程度になるようです。

そして、法定後見のランニングコストになりますが、後見人が親族であれ弁護士などの専門職であれ、自由に報酬は決められず、家庭裁判所が決定します。
専門職が後見人となる場合、原則1年間の後見人の職務内容、被後見人の年間収支・保有財産等をもとに算定されます。月額2~6万円となる場合が多いようです。

また、後見人として不動産売却や遺産分割協議に参加するなどして、被後見人の財産を増加させたときには、付加報酬を請求できるため、年額100万円近くの報酬を支払う必要があります。なお、報酬は被後見人の財産から支払われることになります。

親族後見人の場合は、報酬を貰わないことが選択できますが、被後見人が一定規模の財産を保有している場合には後見監督人が選任されることが多いため、毎月1万円程度の報酬を後見監督人に支払う必要があります。

②任意後見の場合、任意後見契約を発動するための申立てを家庭裁判所にする必要があり、導入の費用は法定後見と同じくらいになります。
また、報酬は任意後見契約で自由に決めることができます。

しかし、任意後見の場合は、必ず任意後見監督人が就任するため、任意後見人が無報酬と決めても任意後見監督人への報酬が必要になります。
専門職が任意後見人・任意後見監督人に就任した場合、任意後見人報酬が月額3~5万円程度、任意後見監督人報酬が月額1~2万円程度かかります。

(2)家族信託の場合

「家族信託」は、「成年後見制度」に比べると、導入時の費用が一般的に高くなります。
まず、公証役場で公正証書を作成する手数料が必要になります。この手数料は、信託財産が数千万円であれば、3~4万円程度、1億円を超える場合には、10万円を超えるイメージになります。

また、信託財産に不動産がある場合、信託登記が必要になり、登録免許税として不動産の固定資産税評価額の0.4%(土地の場合は0.3%)がかかります。
家族信託の契約書作成や信託登記手続きは、専門家以外で行うのは困難なため、弁護士や司法書士へ依頼する費用も掛かります。

一方、「家族信託」は信託業法の規制により、法律専門職等が家族信託の受託者になることはできません。
そのため、原則として家族・親族が受託者となり、ランニングコストを想定する必要はありません。もちろん、受託者に信託報酬を支払うことも決めれますが、必要不可欠なものではありません。なお、信託監督人に法律専門家を置く場合には、報酬が必要となります。

そして、「家族信託」は、「成年後見制度」のように一代限り(例えば、認知症になった父親)のサポートとは異なり、父親と母親の2人の生涯のサポートや遺族(例えば、障がいのある子どもや浪費癖のある子ども)をサポートする仕組みとして設計することが可能です。

数10年単位でのサポートができることを考えた場合、家族信託はあらかじめ費用が分かり、経済的負担を抑えられる可能性があることからすれば、そのコストは高いとは一概に言えません。

4.まとめ

以上、「家族信託」と「成年後見制度」の違いを行為の制約や費用から比較してみましたがいかがでしょうか。
費用については一般的な相場を挙げただけですので、「家族信託」に興味を持たれた方は、費用の点も含めて、一度、弊所にご相談ください。

弊所は、弁護士法人、司法書士法人、税理士法人を併設していますので、別々の事務所に依頼するような手間やコストもかかりません。